(2023/8/9 05:00)
企業は株主への利益還元に偏重せず、従業員や取引先などの幅広いステークホルダー(利害関係者)にも十分に目配りし、中長期の成長投資を通じて企業価値を向上させたい。存在感を増すアクティビスト(物言う株主)には中長期の戦略を明確に示し、適度な緊張関係を維持しつつ持続的成長を目指したい。
東芝に対する日本産業パートナーズ(JIP)の株式公開買い付け(TOB)が8日から始まった。TOBが成立すれば株主構成が変わり、海外投資ファンドなどの物言う株主との対立に終止符を打てる。東芝が中長期的な視野で戦略を実行し、企業価値を高めると期待したい。
物言う株主は、東芝のケースように利益相反を招く投資ファンドばかりではない。気候変動対策の強化や女性取締役の登用を求めるなど、前向きな経営上の提案も少なくない。
ただ数年の短期間で株主還元を求める傾向があり、企業の中長期の成長を妨げる懸念も指摘される。企業は株主の声を真摯(しんし)に受け止める必要があるが、対話も必要だ。人材投資や成長分野への積極的な資金投入、低採算事業の見直しなどの中長期の戦略を株主に訴え、持続的な成長軌道を描きたい。
物言う株主の存在感は、6月末に終了した株主総会でも示された。東京証券取引所に上場する3月期決算企業への株主提案が過去最多の90社程度に達した。自社株買い・増配などの株主還元や取締役の選任、脱炭素への対策強化などの提案を増やしていた。中でも自社株買いは、東証が求める株価純資産倍率(PBR)の改善につながるものの、効果が短期にとどまる可能性がある。上場に値するPBR1倍以上を長く維持し、世界から投資を呼ぶ込む上でも対処療法の施策は限定的な範囲にとどめることが求められる。
政府は秋の臨時国会に「金融商品取引法改正案」を提出する予定だ。企業が国に提出する四半期報告書を廃止し、取引所規定に基づく四半期決算短信に開示を一本化する。短期の利益ばかりでなく、中長期の成長投資が促される効果に期待したい。
(2023/8/9 05:00)
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