社説/原発処理水の放出 政府は地元理解の醸成継続を

(2023/8/22 05:00)

東京電力福島第一原子力発電所に貯(た)まった「処理水」の海洋放出をめぐり、政府は継続して地元と国際社会の理解を醸成すると同時に、十分な風評被害対策を講じてもらいたい。

岸田文雄首相は20日に福島第一原発を視察し、処理水海洋放出に向けた東電の対策を確認。21日には全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長らと面会し、政府の風評被害対策や安全性確保に向けた取り組みなどを説明した。22日に関係閣僚会議を開き、月末にも海洋放出を始めることを決定するとみられる。

岸田首相は全漁連との会談で、数十年の長期にわたって風評被害対策を予算措置することを伝え、「国が全責任を持って対応する」ことを約束した。全漁連も「重い発言」と受け止めており、地元の理解醸成に向けて前進と言える。全漁連は処理水の安全性で理解を示しつつも、風評被害への懸念を払拭できずにいる。政府がこれまで予算措置した計800億円から踏み込んだ首相発言と評価でき、確実に履行してもらいたい。

政府と東電は2015年、処理水放出は地元の理解を前提に行うとした。政府責任として、地元との約束を反故(ほご)にすることは許されない。全漁連の放出反対は覆っていない。政府は処理水放出の間際まで地元の理解醸成に努めてもらいたい。

政府は国際社会の理解を醸成する努力も継続する必要がある。処理水を外交カードに使う中ロはさておき、かつて核実験に使われた南太平洋では処理水に懸念を示す国・地域も少なくない。加えて中国は22年にソロモン諸島と安全保障協定を結んでおり、太平洋諸島と処理水への懸念を共有したい意向だ。日本政府は、国際原子力機関(IAEA)による監視結果を定期的に太平洋諸島にも報告し、現地の理解を広げていきたい。

東電は海洋放出に際し、関連設備の管理には万全を期してもらいたい。また同社は発電所、風評対応、賠償などの関係部署を横断的に統括する社長直轄のプロジェクトチームも発足させる。政府・東電は地元に寄り添い、廃炉の歩みを進めたい。

(2023/8/22 05:00)

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