(2023/8/23 05:00)
産業界の新陳代謝を促したい。中小企業の倒産件数の増加傾向を懸念する一方、倒産を上回る起業を促すことで日本経済の活性化につなげる視点も併せ持ちたい。政府の「スタートアップ育成5カ年計画」を確実に達成することで、持続可能な経済社会の実現につなげたい。
東京商工リサーチによると、7月の倒産件数は前年同月比53・4%増の758件だった。コロナ禍下では最大の増加率で、負債総額も同91・7%増の1621億円に急増した。コロナ禍下の政府の資金繰り支援が終了し、民間金融機関から借りた実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が7月から本格化したことなどが影響した。加えて、物価高や人手不足も経営の足かせとなり、倒産件数がさらに増えないか懸念される。
新型コロナが感染法上の5類に移行し、経済活動が正常化に向かっている。本来なら中小企業にも追い風のはずだが、過剰債務を抱える中小は売り上げが増えても資金繰りが難しい。賃上げやエネルギー価格の高騰分の価格転嫁が進んでいないことも台所事情を厳しくしている。
ゼロゼロ融資によりコロナ禍下で“延命”してきた企業の倒産はやむを得ない部分もある。ただ自主再建や事業再構築を目指す中小企業の価格転嫁は円滑化し、取引を適正化させることが親企業には求められる。
倒産が増加する中、起業をそれ以上に増やしたい。企業の参入率と退出率の合計が高い国ほど経済成長率は高い。岸田文雄政権の「新しい資本主義」はスタートアップ数を2027年までに10倍に増やし、スタートアップへの投資額を10倍の10兆円規模とする5カ年計画を推進中だ。起業家教育や資金供給・イノベーションへの支援策を拡充し、計画の達成に近づきたい。
スタートアップによる成長分野の育成は、賃金上昇や女性活躍の効果も期待できる。新たな価値創出で価格決定権を握れば価格転嫁の問題も緩和される。大企業の組織力とスタートアップの革新的な発想を融合することで、イノベーションが誘発される効果も期待できるはずだ。
(2023/8/23 05:00)