(2023/10/23 05:00)
岸田文雄首相は20日、所得税の時限的な減税を検討するよう自公両党の政調会長らに指示した。事実上の賃上げとなる所得減税により、実質賃金を増加に転じさせ、デフレ脱却につなげる狙いだ。ただ防衛費増額の財源として所得、法人、たばこ税を増税する方針を決めており、政策の整合性を臨時国会で問われる可能性がある。少子化対策の財源も確保できておらず、所得減税は財政規律にも配慮した慎重な議論が求められる。
岸田首相は「税収増を国民に還元する」として所得減税の検討を指示した。だが鈴木俊一財務相は「十分な財源的な裏付けがあるとは思っていない」としており、首相は還元できる税収があるのかも明確にする必要がある。与党は所得減税の恩恵が及ばない非課税の低所得者を対象に、給付金の支給も検討しており、財政負担は所得減税にとどまらない可能性がある。
もちろん景気後退局面や大規模な自然災害時には、財政健全化に優先して減税や補正予算を機動的に講じる必要がある。だが有識者の中には、需給ギャップがプラス圏に接近している中、消費喚起の所得減税の必要性に懐疑的な見方もある。日銀は4―6月期の需給ギャップをマイナス0・07と試算した。内閣府はプラス0・4と3年9カ月ぶりのプラスに達したと推計している。
デフレ脱却の好機を逃すまいという岸田政権の考え方は適切だ。2023年春闘は30年ぶり高水準の賃上げを実現し、こうした流れを後押しする総合経済対策に期待したい。ただ所得減税は、内閣支持率の回復や衆院解散・総選挙を見据えた党利党略との手厳しい見方もある。日本は国の歳入の3割を国債に依存する厳しい財政事情にあるだけに、予算編成を平時に戻す意味でも財政規律に配慮したい。
年末の政府予算案の編成に向け、診療報酬と介護報酬の同時改定の議論が始まった。少子化対策の財源確保や、国民の社会保険料負担を増やさないためには報酬の抑制が求められる。日本医師会は報酬引き上げを求める。税制と同時に社会保障の国民負担の行方にも注視したい。
(2023/10/23 05:00)
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