(2023/11/3 05:00)
「企業博物館には物語がある」。日本展示学会理事の粟津重光さんは、200カ所に及ぶ企業博物館を訪れている。その魅力は、一般の博物館では特別企画の学芸員解説でもなければ味わえないという。
自身、象印マホービンの「まほうびん記念館」を立ち上げ、2008年から5年間館長を務めた。その間、約6000人が来館し、さまざまなステークホルダーとの対話で、自社の歴史が見事につながってくることを体感した。
そんな話に惹(ひ)かれ、セイコーミュージアム銀座を見学した。創業以来の製品が並び、時代背景とともに企業の歴史が説明される。見覚えある時計には、自らの思い出もよみがえる。時が深く刻みつけられたような気がする。
コロナ禍前に見学した京都の島津製作所創業記念資料館では、展示を通して近代の科学技術の発展が語られていた。その先端を追い続けるという企業精神が、ノーベル賞受賞者を輩出する土壌を培ったのではないか。当時、そう得心したことを思い出した。
共感を呼ぶ物語は企業文化を表す。取引先の理解、社員の帰属意識、就職先としての学生の認知を高めるブランディングになる。企業博物館には、そんな思いが詰まっている。
(2023/11/3 05:00)