『防災心理学入門 豪雨、地震、津波に備える』著者・京都大学防災研究所教授 矢守克也氏 「分かったつもりで終わらせない」 

(2023/12/1 12:00)

―防災心理学の基本から最新研究まで、それぞれ数分で読める短編エッセーで構成されています。

「防災心理学で分かったことなどを一般の方に伝えたいと思ったのが出版のきっかけ。ネットで情報を取ることに慣れている人にも読みやすいよう長さなどに工夫し、(スターバックスコーヒーのドリンクサイズのように)グランデ、トール、ショートと名付けた3サイズ、計64本のエッセーにまとめた。カフェでコーヒー片手に気軽に読んでほしい」

―読者に伝えたいことは。

「分かったつもりで終わらせない、分かった気になっていることこそもう一度深く考え直してみてほしい。防災は良い意味でも悪い意味でも注目されている分野で、言葉も皆よく知っており、例えば正常性バイアスという言葉も一般化している。言葉があると理解した気になってしまうが、本当に大事なのは正常性バイアスからの避難の遅れをどう克服するか。素直な感性や疑問を大切にし、『分かったような気になっているだけでは?』、『それで本当に問題が解決するだろうか?』と、ちょっと立ち止まって考え直してみるきっかけになればとの思いを込めた」

―防災の考えを企業経営に生かすには。

「この本のベースには、普段とまさか、いつもともしもの間の溝をいかに埋めるかという考え方がある。ビジネスでも同じで、普段とまさかをシームレスに結びつけることが大事ではないだろうか。多少の負荷があってもいろいろな取引先とやりとりをすることで、普段は新しいビジネスチャンスとしてプラスに作用し、まさかの時には調達先の複線化として対応力を高められる。普段からまさかの時の意思決定をすることで、振る舞いに柔軟性が生まれる」

「河川水位や気象など防災情報はもしもの時だけ見てもだめだ。体温も平熱を知っているから大丈夫か大変かと分かるように、普段の数字を知っているから情報の意味や規模感が分かる」

―防災対策における課題は。

「災害関連死について対応が必要だ。日本で『大震災』と呼ばれるものは、関東大震災(1923年)、阪神・淡路大震災(95年)、東日本大震災(2011年)の三つ。それぞれ主な死因は、火災、建物倒壊などによる圧死・窒息死、津波での溺死だった。これに対し、16年の熊本地震では、8割以上が持病の悪化や心身のストレスなどによる災害関連死だった。これからの高齢化社会で関連死は避けて通れない。関連死低減のビジネスなどを本気で考える必要がある。また、暑い中で停電すれば死者は1ケタ増えるかもしれない。家庭用ソーラーや蓄電池、電気自動車(EV)などは二酸化炭素(CO2)削減などの文脈で語られることが多いが、防災上もとても重要だ。停電した時にどうしのげるか、真剣に考える必要がある」

「また、熱中症で亡くなる人は近年、毎年平均1500人程度おり、これは自然災害で亡くなる人の数倍にもなる。地震や火山、豪雨などに加え、暑いということを大きな自然災害として捉え、注目する必要がある」

(2023/12/1 12:00)

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