衛星軌道に「安全な道」を クリアスペース

(2024/1/12 12:00)

宇宙デブリを大気圏に投げて焼却 世界初のミッションに挑戦

  • 26年に予定されているクリアスペース-1の打ち上げに関する署名式(クリアスペースのリュック・ピゲCEO(左)と、アリアンスペースのステファン・イズラエルCEO)

米国を中心に宇宙開発が進む中で、欧州での技術開発も注目されている。スイス発の宇宙系スタートアップのクリアスペース(ローザンヌ市、リュック・ピゲ最高経営責任者〈CEO〉)は、宇宙デブリの捕獲・除去技術の研究開発を進めている。2026年後半にも同社が開発した衛星「クリアスペース―1」を打ち上げ、宇宙デブリの除去ミッションを始める。安心安全に宇宙利用を進める基盤作りを本格化する。

クリアスペース―1は欧州宇宙企業アリアン・スペースのロケット「ベガC」で打ち上げ、宇宙デブリへの接近と確保、地球の大気圏に放って除去するという一連の作業を実施する世界初のミッションに挑戦する。クリアスペースのリュック・ピゲCEOは「宇宙デブリの除去ミッションを通じて、宇宙空間への安全な道を確保できる。ミッション成功は宇宙開発の転機点になる」と意気込む。

  • 宇宙デブリ(左)と開発中の宇宙機。ロボットアームで宇宙デブリをつかんで回収する(クリアスペース提供)

同機には4本のロボットアームが搭載されており、宇宙デブリに近づいてつかんで回収できる仕様だ。同ミッションは20年に欧州宇宙機関(ESA)と契約を結んで進められており、13年に打ち上げて地球軌道上を漂っているベガの上部を標的としてロボットアームを使って除去する計画だ。アリアンスペースのステファン・イズラエルCEOは「ベガCでの輸送でミッションに貢献できる。宇宙デブリの対策は、宇宙の恩恵を今後も受けるために必要なこと」と強調する。

地球の軌道上には約1万機の運用衛星があり、年々数が増加している。だが宇宙空間には10センチメートル以上の宇宙デブリが3万4000個以上存在するとされており、将来の宇宙機の運用のためにもこれらの除去技術の確立が求められている。クリアスペースは18年に設立した軌道上サービスを提供するスタートアップで、宇宙デブリの処理だけでなく宇宙機の延命や組み立て、修理など幅広い技術を開発・提供する。こうした技術を確立することで持続可能な宇宙開発につながり、宇宙分野の経済を循環できると期待される。スイスだけでなくルクセンブルクや英国、米国などにも拠点があり、世界を視野に入れた事業展開を進めている。

スイスは科学技術に投資する傾向があり、政府だけでなくエンジェル投資家によって技術開発が支えられている。中でも宇宙開発は他国に劣らず力を入れてきた分野であり、ESAの設立時から参加している国だ。スイスは時計の製造が有名だが、それに使う精密技術を生かして宇宙開発に臨んでいる。米国のアポロ計画にも技術提供しており、月面で初めて宇宙飛行士が装着した時計はスイス製だった。

最近では火星や水星の探査に関わるミッションに参加しており、スイスが作った分析装置などが探査機に搭載されている。クリアスペースをはじめとしたスタートアップも増えており、今後の宇宙開発にスイスがどう関わってくるかが見どころになりそうだ。

(2024/1/12 12:00)

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