(2024/1/12 12:00)
遠隔と自動化の融合 広がるロボットの可能性
人工知能(AI)でもロボットでも自動化しきれない細かな課題にベンチャーが遠隔操作で挑戦している。画像認識できなかった商品を画面越しに人が見て判断するなど、人がロボットを助ける試みだ。川崎重工業とソニーグループの合弁ベンチャーのリモートロボティクス(東京都港区)がクラウドサービスとして事業化した。遠隔操作データはAIの再学習にも使える。遠隔と自動化の融合でロボットの可能性を広げる。
「無事2回目の誕生日を迎えられた。パートナーが増えてきたおかげだ」とリモートロボティクスの田中宏和社長は目を細める。2021年12月に起業し、ロボットへの遠隔支援システムの技術開発とビジネスモデル開発を並行して進めている。
例えば新しい商品や珍しい不具合などをAIで判定させるためにデータを集めて学習し直すと、数百万円かかることもある。商品や製造条件が変わるたびにAIに再学習させて自動化するか、頻度が少ないなら人手で対応してしまうか悩ましい場面は多い。すべてを自動化するのは難しく、必ず人が補う部分は残るためだ。こんな場面も遠隔で対応できれば、現場に担当者を配置せずに済む。育児や介護で勤務に制限があったり、障がいのある人が対応できると雇用の幅が広がる。
リモートロボティクスは自動化システムを遠隔操作化するソフトウエア開発キット(SDK)やユーザーインターフェースなどを開発する。遠隔操作する人とタスクのマッチングも担う。難しいのは遠隔タスクの設計だ。例えば物流の仕分けラインではビニールでぐるぐる巻きにした段ボールが流れてくることがある。通常の段ボールなら貼られたラベルを画像認識できるが、ビニールに巻かれていると光が反射してカメラで読み取れない。人なら見ればわかる。
ただ遠隔で対処するとなると、AIで再認識するためにラベルを探して領域を指定すれば済むのか、画面越しにラベルを人が読んで入力するのか、そもそも角度を変えて撮り直す必要があるのかなどの判断が必要だ。まずは社内で試して遠隔タスクを定型化し、判断のフローや対処を固める必要がある。
さらに画面越しでも読みやすいラベルにデザイン変更したり、照明を工夫できればタスクは簡単になる。不具合を見つけてからの事後対応よりも、システム構築時に遠隔化も進めるのが理想だ。田中社長は「システムインテグレーターのパートナーが開発事例を積み上げてくれている」と手応えはある。
そして遠隔操作を社内だけでなく、人材派遣で対応できれば柔軟性が増す。ここでは生産ラインの稼働具合などが社外に伝わることが懸念された。田中社長は「大手は理解がある。秘密保持契約(NDA)を結んで社外の人に任せる仕組みがあり懸念は意外と小さかった」と振り返る。技術開発とビジネスモデル開発は不可分だ。ベンチャーが突破口を開けば遠隔と自動化を融合させた新市場が立ち上がるかもしれない。
(2024/1/12 12:00)
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