(2024/1/12 12:00)
―感染症研究の道に進まれたきっかけは。
「共立薬科大学(現慶応義塾大学薬学部)大学院の修士課程で生化学で肝臓の酵素を研究した。博士課程は他の大学院を希望し、東京医科歯科大学大学院の生化学研究室、順天堂大学大学院の免疫学研究室を受け、どららも合格した。両大学を隔てた『サッカー通り』の真ん中で数十秒考えて順天堂大に決めた。人生は一回だから安直な道ではなく、向かい風が吹く方を歩いてみようと、免疫学という新しい扉を開けようと思った」
―執筆の理由は。
「国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)元所長の大谷明先生と20年以上前に米国での会議で出張した時に『オールラウンドプレーヤーになりなさい!』と言われ、視野が広がったことだ。今後はグローバル化でさまざまな感染症がやってきて、落ち着いたと思った感染症がはやったり、パンデミックを起こす新しい感染症も出たりする、だからオールラウンドで感染症を語れるように勉強すべきということ。すごい宿題だと重く受け止めた。感染研にはさまざまな専門の先生がおられ、喜んで本をくれたり、レクチャーをしてくれたりした。さながら弟子入りのように学び、非常に貴重な体験だった。この経験から連載も苦なく楽しくこなせてようやく結実した本だ。大谷先生の弟子でツツガムシ研究で著名な坪井義昌先生に『感染症で(旅行家の)イザベラ・バードになれ』と、フロンティア精神を持ってオールマイティーに取り組めと言われたことも大きい」
―『感染症・微生物学講義』の特徴はどんな点でしょうか。
「感染症の本は11月の新刊が良いというが、今回の新書は週刊ポストで『感染るんです(うつるんです)』という2023年5月までの1年3カ月の連載を基に加筆する形で23年8月に発売した。連載は問題や話題となっている時事的な感染症や、読者が知っておいた方が良い重要な感染症を網羅した。一般向けの連載なので食中毒や、性感染症で大問題の梅毒、温暖化で注目される蚊が媒介するデング熱など、オールラウンドに感染症を取り上げた」
―文学的な背景など読みやすい工夫が印象的でした。
「本が好きで、小中高で2日に1冊は読んでいた。ジフテリアは文豪の幸田露伴の次女である幸田文(あや)さんの文章が興味深かった。与謝野晶子は当時、スペイン風邪の流行時に横浜貿易新報に日本の状況と政府への不満をつづっている。シューベルトは梅毒にかかっていた。感染症について作家らが体験を作品として残しており、感染症を研究することは作家らの人生を追体験することに似ている。そんなさまざまな角度から書けたことが本書の良い点だ」
―今後書きたい分野や、感染症に対して備えるべき点は。
「リスクの上がる輸入感染症に特化して書きたい。読みやすい短編小説の形で問題となる感染症を語る作品に挑戦したい。例えば、鳥インフルエンザは遺伝子変異などでヒトに感染する新型インフルエンザに変異することがある。さまざまな感染症があることを意識し、医療体制を含めて備えないといけない」
(2024/1/12 12:00)
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