(2024/2/2 12:00)
国内外で宇宙関連の大手企業やベンチャー、大学などが参画し、ロケットや探査機の開発などでしのぎを削っている。地球から飛び出した人類は月、さらに火星や木星など太陽系の外側に探査領域を広げるだろう。宇宙探査にはロケットや探査機が必要で、効率良く推進力が得られるエンジンの開発が重要なテーマだ。電気推進ロケットエンジンの開発を進める大阪産業大学の田原弘一教授の研究室を訪ねた。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」の宇宙での飛行には電気推進ロケットエンジンの一種であるイオンエンジンが使われている。燃料となるキセノンをイオン化、強力な磁場で加速し噴射することで推力が得られる。燃費が高効率である一方、パワー不足は否めない。田原教授は「月や火星への有人探査の宇宙機には推力が強い電気推進エンジンが必要」と強調する。
田原教授はイオンエンジンなど電気プラズマを利用した宇宙機用エンジンを30年間以上開発してきた。今ではパワーが強い「アークジェットエンジン」や、大型衛星の電気推進に使われる「ホール型イオンエンジン」などの開発を手がける。模擬の宇宙空間を作れる試験装置「スペースチャンバー」を複数所有し日々研究を続ける。
国内外で多くのエンジンが開発されているが、その燃料のほとんどがキセノンだ。宇宙探査の需要に対しキセノンの量は枯渇すると予想される。田原教授は「水や二酸化炭素(CO2)を活用するなど燃料を多様化する必要がある」と説く。
燃料の多様化で調達方法も変わる。今までは地球で宇宙機に燃料を積み宇宙探査を行ってきた。「今後は宇宙機を飛ばしつつ燃料の現地調達が求められる」(田原教授)。原理的に有人で到達可能な木星には水素やヘリウム、メタン、アンモニアなどがあるとされている。探査の途中で調達したガスを宇宙機の燃料として使う可能性も出てくる。
だが燃料の代替は難しい。キセノンなど従来の燃料の使用を前提にエンジンの構造は最適化され、別の燃料では動かない。そこで田原教授らはキセノンの燃料で最適化されたアークジェットエンジンを改良。CO2やメタンなどを代替燃料として1時間程度エンジンを稼働させることに世界で初めて成功した。
今後の課題はエンジンの部材となる長寿命の電極だ。水やCO2を燃料に使う場合、酸化して電極がもろくなる。そのため酸化に強い電極材料を探している。田原教授は「電極の交換なしで1000時間以上エンジンを作動させることが目標。人工衛星に搭載し、衛星を操作する用途で使いたい」と話す。3―5年後をめどにCO2やメタン、水などを燃料とした実機システムの開発を目指す。
「あと50年で木星域が人間の生活圏になるかもしれない」(同)。そんな時代が到来しつつある。人類の生活圏がどこまで広がるのか。宇宙機用エンジンの開発が期待される。
(2024/2/2 12:00)
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