(2024/3/6 12:00)
ビジネスパーソン同士の会話において「垂直統合」あるいは「自前主義」という表現はやや自虐的なトーンで用いられがちだ。話題が国内産業に関するものであるときはなおさらだろう。しかし、これらの概念はサプライチェーン・マネジメント(SCM)の文脈において必ずしもそのような扱いを受けるものではない。調達戦略の観点より考察してみたい。
SCMの文脈において「垂直統合」はサプライチェーン(供給網)を構成する要素の一部、または全部を自らの工程として取り込んだ状態を指す。対概念の「分業」による規模の経済の追求を基本とするSCMの世界において選好される状況は本来限られる。
しかし、昨今はさまざまな産業分野においてSCMの一環としての垂直統合アプローチを目にする機会が増えた。北米自動車産業におけるリチウムの域内調達シフトはその好例だろう。キー部材が地政学リスクにさらされている状況では電気自動車(EV)のサプライチェーンが破綻しかねない。国家を挙げて調達ルートの垂直統合へとかじを切った。
身近なところではマクドナルドのマックフライポテトも垂直統合の一種といって良いだろう。同社はこれをグローバル基幹商品と位置付ける。北米で一括調達したものを日本に供給する。外部環境の変化に対する柔軟性は相対的に抑制されるが、年間計画に沿った数量を確実に調達できる。
SCMにおける調達戦略の定石は調達の対象とする原材料などを重要性と欠品リスクの二軸で評価するアプローチだ。重要性が高く、かつ入手できなくなるリスクの高い原材料などについては調達先を単なるサプライヤーではなく利害を共有するパートナーとみなす。共同開発のような関係性強化の方法が有効だが、垂直統合でも同様の効果を得られる。
確かに垂直統合は発展の限界を自ら設けることになる可能性を内包する。しかし、サプライチェーン全体が機能不全に陥ってしまっては元も子もない。垂直統合によって手元に取り込んだ要素がどれほどの重要性を持つのか、その見極めが肝要である。
◇著者:MTIプロジェクト 『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(日刊工業新聞)』の著者である山本圭一・水谷禎志・行本顕の3氏によって創設された世界標準のSCM普及推進プロジェクト。MTIは「水山行」のラテン語の頭文字。本連載はメンバーのうちASCMのSCMインストラクター資格を持つ行本顕が執筆を担当
(2024/3/6 12:00)
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