(2024/4/5 12:00)
約10センチ×約5センチ×約5センチメートルの大きさのヒトの腎臓は、機能を損なっても容易に再生できない唯一無二の臓器。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の長船健二教授らは、再生が困難な腎臓の人工多能性幹細胞(iPS細胞)による作製に挑戦している。鍵となるのが「ネフロン前駆細胞」。これが分化されることで腎臓の各種パーツが完成する。ブタを使ってヒトに移植する腎臓を作製する研究も水面下で始まっている。
腎臓は老廃物や過剰に摂取した塩分や水分を排泄し、体液を一定の質に保持する。糸球体や尿細管などで構成し、糸球体は血液中の老廃物や塩分、水分を濾過、尿細管は糸球体で濾過した尿から身体に有用な成分を再吸収する働きがある。
糸球体や尿細管が何らかの働きで機能低下している状態にある疾患が、腎臓病だ。腎臓病が重篤になると、人工透析による治療が一般的に実施される。人工透析は週3回程度行う必要があり、一度の治療で数時間を要する上に大量の除水など身体への負担が大きい。
腎臓内科が専門の長船教授は2006年、胎児期の腎臓の中にあり、腎臓を構成する糸球体や尿細管などのもとになるネフロン前駆細胞を発見。人工透析に代わる治療法としての腎臓の移植を目的に、iPS細胞由来のネフロン前駆細胞の高効率な作製技術を開発してきた。
長船教授ら研究チームは数年間の研究のなかで、iPS細胞に複数の化合物や増殖因子を添加し、12日間程度で完成する工程を編み出した。さらにネフロン前駆細胞から分化してできる糸球体と尿細管を含む3次元の腎組織を、複雑な処理を経て作製することに成功した。大まかなパーツが完成したが、長船教授は「今後の課題はいくつかある」と話す。それは作製した腎臓を胎内で実際に使える大きさにすることのほか、濾過した尿を排出するために腎臓を大血管や集合管、尿管といった下部尿路につなげることだ。
ヒトの身体の中で働く腎臓の開発を目標に据えるが、腎臓病への治療薬や細胞療法の開発にもつながると見ている。中でも、投与した細胞の働きで疾患を治療する細胞療法については、早期の実現が見込めそうで、「数年後に臨床を目指す」(長船教授)という。
ネフロン前駆細胞の作製全般については長船教授が創立に関わったリジェネフロ(京都市左京区)に技術移転しており、同社を通じて社会実装を進める方針。ブタ体内に腎前駆細胞を移植し、ヒトに移植する腎臓を作製する研究も進行中。研究が順調に進めば、10年以内にヒトへの移植が実現する可能性もある。
長船教授の研究は腎臓にとどまらず、膵臓や肝臓の作製にも及ぶ。その理由について長船教授は「腎臓病患者は糖尿病や肝臓病を合併することが多く、膵臓も肝臓も腎臓に密接にリンクしているため、双方の作製にも挑戦している」と説明。腎臓病の根治療法の確立に向け、多様な手法を模索している。
(2024/4/5 12:00)
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