日本で誕生、生産技術も日本で 『ペロブスカイト太陽電池ー光発電の特徴と産業応用ー』著者・宮坂力氏に聞く

(2024/4/19 12:00)

ー執筆する際に意識したことは。

「なるべく最新のデータを盛り込もうと心がけた。また、ペロブスカイト太陽電池の研究動向だけでなく、太陽エネルギーや太陽電池の種類に関わる話などを網羅し、より幅広い人に読んでもらえるようにした。発刊に当たっては出版社にカラー化を要望し、実現した。分かりやすい本に仕上がったと思う」

「今後、中国語版の出版を予定している。本書は『ペロブスカイト太陽電池』が日本で誕生した経緯も紹介している。(研究が非常に盛んな中国で)日本で誕生した技術ということをアピールしたい」

ー書籍の企画が立ち上がってから出版まで約8年かかりました。

「研究者としては新しい発見をして学術論文を執筆することが最優先。本書のような一般書の執筆はどうしても後回しになってしまう。ただ、太陽電池にペロブスカイトを最初に用いたグループの一人として、内容を解説する一般書を他人に書かれてしまったら悔しい。執筆に対する思いはずっと持っていた」

ー特に読んでほしい人は。

「強いて言うなら大学生だ。本書を読んでペロブスカイト太陽電池に関心を持ち、その研究者の道に進んでもらえたらうれしい」

ー最新の技術を数多く紹介しています。特に注目の技術は。

「一つはパッシベーション。(光を吸収して電子と正孔を発生させる)ペロブスカイト層と(電子と正孔をそれぞれ運ぶ)電荷輸送層の界面などに存在する欠陥について添加剤などを使って不活性化する技術で、変換効率や耐久性を高める方法のトレンドになっている。(添加剤としては)アミノ酸やカフェインなどが用いられており、他の太陽電池にはない面白い研究で、これからも進展するだろう」

「成膜技術の動向も注目だ。ペロブスカイト太陽電池は溶液を塗って乾かして作製できる特徴を持つが、そうではない『真空蒸着』という方法を用いる研究も広がっている。そのほか、ペロブスカイト層の(毒性のある)鉛をスズなどに代替する研究も進んでいる」

ー企業による事業化において重要な生産技術についても解説しています。

「大学や企業の研究室で作成する小さなセルでは、変換効率20%を容易に超えられるようになってきた。一方、実用サイズの大面積モジュールはまだ15%程度にとどまっている。実用化に向けてはこのギャップの解消が大きな課題だ。大面積の場合、膜の厚みや結晶の物性を均一に生成することが難しい。その課題を解決する生産技術の確立は非常に重要で、本書でも強調した部分だ。日本は(成膜条件などを)細かく制御する能力が高いので(日本のメーカーによる技術の確立を)期待している」

ー積水化学工業やパナソニックなどが2025年以降の事業化を目標に掲げるなど、実用化が目前に迫っています。

「とてもわくわくしている。ペロブスカイト太陽電池は主要原料のヨウ素が国内にあり、その生産において日本の技術が生かせる製品だ。(メーカーは)リスクを取って事業化に挑戦してほしい」

(2024/4/19 12:00)

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