(2024/4/19 12:00)
宇宙産業といえば実際に宇宙へ行く人工衛星や探査機が花形だが、その運用に不可欠なのが地上から通信する追跡管制システムだ。三菱電機は気象衛星「ひまわり」や位置測定や時刻配信などを行う衛星測位システムの準天頂衛星「みちびき」など日本を代表する人工衛星の地上設備や、「はやぶさ2」など宇宙の遠方へ向かう深宇宙探査機と通信する美笹深宇宙探査用地上局(長野県佐久市)などの大型アンテナで日本の宇宙進出を支える。
三菱電機はほかに、米ハワイ州に設置されている大型光学赤外線望遠鏡の「すばる望遠鏡」やチリのアタカマ砂漠にある電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」など大型望遠鏡システムでも豊富な実績を持つ。
同社が得意とするのは直径50ー60メートルの大型アンテナや直径数メートルの大型望遠鏡。これらの大型構造物は薄くて面積の広い部位が主要となるため風や熱の影響を大きく受ける。
同社電子通信システム製作所の大島丈治副所長は「動く1点を追いかける技術を、重く軟らかいため環境や自重の影響を受けやすい構造物で実現する」とポイントを挙げる。高い観測精度のためには直径が大きいほどいいが、厚さを変えられないため大きくなるほど全体が軟らかくなり、変形を抑える技術が必要となる。また、得る情報量を増やすため観測波長がどんどん短くなってきており、パラボラ(放物面)や鏡面などの加工精度も求められる。
ただ意外にも「宇宙はハイテクのイメージが強い分野だが、実は望遠鏡や地上管制システムでは新たな技術を生み出すより既存の技術の組み合わせが大半だ」(大島副所長)。例えば、熱を制御しながら均一な形状を保つ必要があるアルマ望遠鏡では、血液循環の仕組みにヒントを得て、支えるパイプに外気を通す方法で対応した。大島副所長は「総合的に既存技術を組み合わせ相乗効果を得て、新たなモノを作り出す。技術を再生し、新しい価値を持たせるともいえる」と力を込める。
アルマ望遠鏡は1台の望遠鏡の大きさに物理的な限界があることから、日米欧で協力して66台の電波望遠鏡のアンテナを並べ1台の望遠鏡のように機能させることで高い能力を実現している。日本の担当として三菱電機が「いざよい」と呼ばれる16台を手がけた。当初は同じ大きさのアンテナを並べる計画だったが、アンテナ間のすき間を小さくするため一回り小さなアンテナも製作し、観測精度の向上に貢献した。
現在、5カ国による国際共同プロジェクト「30メートル望遠鏡(TMT)」にも参加している。今後の事業展望として「宇宙との通信によって地上と宇宙の境界がなくなり、一体の空間となっていく」(同)と想定。従来から人工衛星との通信で社会の利便性が高まっている点を踏まえ「良い暮らしのための社会基盤として需要が続く」とみている。将来、月や火星へ人類の宇宙での活動範囲が広まれば、輸送のために通信分野の整備もさらに必要になる。それに伴い「地上設備の役割も大きくなる」と見込む。
(2024/4/19 12:00)
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