(2024/5/7 05:00)
労務費の増加分を取引価格に上乗せする「価格転嫁」の進捗(しんちょく)が足踏みしている。日本商工会議所の4月調査によると、増加分の4割以上を価格転嫁できた中小企業は33・9%にとどまり、前回の2023年10月調査より0・8ポイント低下とほぼ横ばいだった。同年11月には公正取引委員会が価格転嫁を促す指針を公表したが、転嫁が十分に行われていない実態が憂慮される。
日商によると、労務費や原材料費などコスト全体の価格転嫁については、50・9%の中小企業が増加分の4割以上を転嫁できた。だが前回調査より4・4ポイント低下した。労務費だけに絞ると、4割以上転嫁できた中小企業は33・9%と前回調査並み、全く転嫁できなかった企業も25・6%と前回調査から1・1ポイントしか改善していなかった。
岸田文雄政権は今春闘をデフレ脱却に向けた千載一遇のチャンスと位置付け、中小企業の価格転嫁を「新たな商習慣」とするよう労使に訴えていた。公正取引委員会も昨秋、中小企業の賃上げ分の価格転嫁を促す指針を公表し、公正な競争を阻害する恐れがある場合は独占禁止法などで厳正に対処するとした。だが、転嫁は十分に行われておらず、中小企業の収益基盤に影響を及ぼしていないか心配だ。
連合がまとめた24年春季労使交渉(春闘)の第4回集計によると、平均賃上げ率は5・2%の高水準に達し、組合員300人未満の中小労組も4・75%と比較可能な13年以降で最高の伸び率を示している。中小企業の中には、人材の確保とつなぎ留めを目的にやむを得ず「防衛的賃上げ」に動いている企業が少なくない。価格転嫁が十分に行われなければ、25年以降の持続的な賃上げも難しくなる。
日商によると、中小企業の4月の業況指数(DI)はマイナス14と前月比1・1ポイント低下した。歴史的な円安や原材料・物流費の高騰、人手不足が背景にある。発注企業は取引を適正化し、価格転嫁には全面的に協力してもらいたい。雇用の7割を占める中小企業の収益を改善し、政府が「デフレ脱却宣言」を発出できる環境を整える必要がある。
(2024/5/7 05:00)