(2024/5/24 12:00)
神戸大学の津田明彦准教授はクロロホルムに紫外光を照射してホスゲンに変え、それを医薬品中間体など有用な化学品に合成する研究を進めている。このなかでAGCなど素材大手との取り組みを進めつつ、研究に一定のめどをつけた。技術の応用にも挑戦を続け、メタンからホスゲンを生成することにも成功した。この成果の事業化に向けて4月、会社を設立。2026年にパイロットプラントの建設を目指す。
ホスゲンは医薬品中間体やポリマーの原料に使用されており、世界の生産規模は年800万―1000万トンとされている。津田准教授は、「ホスゲン市場は大きい」と話す。市場は年数%程度成長している一方、毒性が極めて高いため代替できる化合物の研究が進んでいる。こうした世間の流れと異なり、津田准教授はホスゲンとして存在している時間を抑え、有用な化学品へと変えていくことでホスゲン市場に挑戦している。
津田准教授は22年、紫外光を用い96%という高い変換効率で気体状態のクロロホルムからホスゲンを原料とする医薬品中間体やポリマーを製造する連続合成生産システムを開発。2時間でグラムスケールの化学品の合成に成功したと発表した。クロロホルムはホスゲンよりも毒性が低いことから採用を決めた。
研究チームは、気体の状態でクロロホルムと酸素が光反応するシステムを設計。液体と気体の不均一な状態を克服し、定量的なホスゲンへの変換を実現した。この手法を“光オン・デマンド有機合成法”と名付けた。システムを応用した実験ではアルコールと反応させ、クロロギ酸エステルやカーボネートを生成できた。
23年にはAGCとの共同研究でドライクリーニング溶剤からウレタン誘導体を合成したほか、毒性が高いイソシアネートを生産過程で使わないポリウレタン合成法を開発するなどした。中でも同合成法は、化学物質規制「REACH規制」を回避しながら高品質なポリウレタンを作製できることが期待できる。
津田准教授は京都大学大学院での学生時代、研究に打ち込み、その成果が国際学術誌に論文として掲載されるなどの実績を残した。ただ、実験で使った化学品の処分などで十分に気を配ることができなかったのが引っかかっていたという。「現在の研究は、当時の罪滅ぼしのようなところがあるのかも」(津田准教授)と話す。学生時代の経験や、その後の音で整列するナノファイバーの研究などを経て、紫外光を使用してクロロホルムからホスゲンを生成する研究にたどり着いた。
4月、津田准教授は光オンデマンドケミカル(神戸市灘区)を設立した。生ゴミや排せつ物などから発生するメタンの有効利用も視野に入れ、このほどメタンからホスゲンを合成することにも成功。この実績を基にして、26年にパイロットプラントの建設を目指している。津田准教授は「光モノづくりを行っていきたい」と意気込む。
(2024/5/24 12:00)
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