(2024/6/21 12:00)
コイワイ(神奈川県小田原市、小岩井豊己社長)は、自動車メーカーや自動車部品メーカー向けの鋳物試作などを手がける。機体脚部の衝撃吸収材を金属3Dプリンターで開発・生産し、2023年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月着陸実証機「SLIM(スリム)」で着陸脚の衝撃吸収材として実際に使用された。金属3Dプリンターでのモノづくりの技術に磨きをかけ、将来の宇宙関連市場の拡大に備える。
コイワイが宇宙事業に関わるきっかけになったのは、12年にスウェーデンのアーカム製の金属3Dプリンターを導入したことだ。導入時の参考情報として、欧州の航空宇宙や防衛分野で同装置が使用された事例があることは知っていたものの、「新しいビジネスを狙うことが第一ではなかった」(小岩井社長)という。
コイワイは07年に砂型3Dプリンターを導入しており、データを立体物に置き換えるノウハウを積み重ねていたため、金属3Dプリンターを使用した生産の立ち上げは円滑に進んだ。一連の設備導入の狙いは、鋳物を扱う現場の労働環境の改善を想定したもので、小岩井社長は「鋳物を金属プリンターの技術に置き換えたかった」と語る。
金属3Dプリンターを導入して間もない時期、JAXAから機体が月面着陸する際に脚部に必要な衝撃吸収材の開発の相談が来た。衝撃吸収材はスポンジ状の構造で、機体が月に体当たりする際に機体を守る役割を果たすもので、強度だけでなく軽量化も必要だった。JAXAの技術者などと要素研究を実施し、大きさや形状など試行錯誤を重ねた。
造形品の変形や割れを抑える熱処理を施すなど、アルミニウムや鉄などの鋳物製品を生産する中で培ってきた経験やノウハウも生かした。
開発した衝撃吸収材は23年に月着陸実証機「スリム」で実際に月面に着陸する機体脚部に実装された。小岩井社長はJAXAなどとの宇宙事業に取り組む意義について「技術的な(信頼性の)裏付けになる」と語る。JAXAとの事例を元に、宇宙分野の民間企業から引き合いがあり、試験用部品の納入につながった事例もあるという。
宇宙での実績は思わぬ波及効果も生み出した。宇宙開発に携われる点を魅力と捉える若年層の採用面接受験が増加。小岩井社長は「若い技術者が必要な状況で、事業の効果がうまくつながっている」と手応えを語る。
金属3Dプリンターを使ったモノづくりでは、自動車補用部品の鋳型保管コストを削減できる点や複雑形状製品の生産などのメリットを生かし、今後も使用を拡大していく考え。
航空宇宙向けでの活用について、小岩井社長は「(金属3Dプリンターによる)生産技術が宇宙開発の発展とともに進歩していくと捉えている」。将来はロケットの構造体などの生産ができるまで技術を高め、宇宙事業を新たな柱とすることを目指している。
(2024/6/21 12:00)
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