(2024/6/21 12:00)
―執筆の動機は。
「大阪ガス退職後、松尾芭蕉の句の解説本を読んだが、その主張に納得できなかった。反論したくても知識が足りない。そこで関西大学に入学した。大学院の卒論では、『おくのほそ道』の写本の一つとされている曽良本が(芭蕉の友である)柏木素龍によって訂正されたとする専門家の研究に対する反論をまとめた。そうした中で、『おくのほそ道』は、句と文による『百韻』と呼ばれる連歌・連句の形式で構成されていると考えるようになった。そう読むと、それぞれの折(百韻の章立て)の冒頭が、各国訪問の最初の地の説明に該当する。さらに百韻の形式通りに、月と花の言葉が配置される。従来の解説書では分からなかったことが見えてきたような気がした」
―芭蕉の旅のきっかけについても、独自に分析しています。
「最後の方に『寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋』という句がある。江戸をたち東北、北陸と旅して、なぜ最後に『須磨に勝った』と露骨に比較しているのか、疑問だった。芭蕉はこの旅に出る前、須磨を訪れ、『源氏物語』の光源氏隠遁や『平家物語』の源平合戦を題材に作品を残している。その時に落胆と興奮を両極端に経験し、歌枕(歌の題材となった場所)の存在の大きさを強く感じた」
「当時、歌枕には霊性が宿ると考えられていた。芭蕉はそこから、西行法師が歩いた東北の歌枕を訪ねようと思ったのではないか。そしてその旅の途中、奥州合戦で源義経が討たれた平泉を訪れ、『夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡』の句を詠む」
―そこに須磨との対比がなされていると。
「義経は須磨で平家追討に活躍し、平泉で討たれた。芭蕉は須磨で恍惚(こうこつ)とした。平泉ではどのような感情になるのだろうと思ったが、詠んだ句は非常に冷静だ。芭蕉の心理状態の違いが見える。芭蕉は旅を通じ、歌枕を引き継いでいこうとする人々の思いを感じただろう。そうした経験の中で、独自の『不易流行』の思想に到達していった」
―大ガスで副社長まで務めた経験は執筆に生かされていますか。
「全室暖房の営業を担当した時、なかなか売れずに困っていた。コストが高いから仕方がないと諦めていた。だが顧客と対話する中で、自分たちは性質が異なる部分暖房と比較していたことに気付いた。そこから部下と戦略を練り直し、販売が急激に伸びた。サラリーマンはいろんな規則に縛られるかもしれないが、その中で創意工夫し自分なりに考える。するとやる気が出てくる。面白さが出てくる。学問の世界も同じではないか」
―研究に対する熱意はどこから生まれますか。
「芭蕉については既に多くの研究者が語り尽くしている。自分の研究は、それと同じかもしれない。ただそれでもよい。自分なりに研究したことで『自分の芭蕉』になっているから。『一流の人物にぶつかる』という気迫がないと、何のために古典を勉強するのか分からない。今後は芭蕉とは全く違う視点を持った与謝蕪村についても、本を書きたい」
(2024/6/21 12:00)
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