(2024/6/21 12:00)
2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け、ますます重要になる再生可能エネルギー。その中心となるのが太陽光発電で、発電効率を高める研究が世界で進んでいる。その要素技術の一つとして注目されるのが、光の色を変える「光アップコンバージョン」という技術だ。和歌山県工業技術センターが研究する同技術が実用化できれば、発電効率の改善が進むと期待されている。
我々の身の回りには太陽光などの目に見える光だけでなく、紫外線(UV)や赤外線、X線などさまざまな光があふれている。可視光なら赤、橙、黄、緑、青、紫の順に光のエネルギーが高くなる。光アップコンバージョンはこれらの光をより高いエネルギーを持つ光に変換する技術。次世代太陽電池として注目される「ペロブスカイト太陽電池」への応用も期待される。
ただ、太陽電池は吸収できる光エネルギーの範囲が限られ、可視光より低エネルギーにある近赤外光を吸収しにくい特性がある。そこで考えたのが、光アップコンバージョンできるフィルムを太陽電池の底に敷き、電池とフィルムの間に透明な電極を挿入。太陽電池が吸収できない近赤外光をフィルムが可視光に変換し、太陽電池に吸わせる仕組み。和歌山県工業技術センター企画総務部の竿本仁志部長は「使われていない近赤外光を変換し利用することで太陽光発電効率の向上に寄与したい」と強調する。
同センターの研究チームは、近赤外光を可視光に変換するフィルムを開発するため、色素と樹脂の混合方法や成膜方法などを検討した。色素を含む有機溶媒のトルエンと酸素を通さないポリビニルアルコール(PVA)の水溶液を乳化。色素とPVAを分離させずに均一で厚さ40マイクロ―50マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のフィルムを作れた。A4サイズの大面積で光アップコンバージョン可能なフィルムの作製は珍しいという。
近赤外光の発光ダイオード(LED)をフィルムに当てると、黄色の光を目視で確認できた。さらにフィルム断面を顕微鏡で確認したところ、5マイクロメートル以下の多くの穴を発見。穴の表面に色素が集まり、光アップコンバージョンが起きやすい状態にあることが分かった。
アップコンバージョン光を作る効率の向上が課題。現状では太陽光の数倍ある1ワットの近赤外光を照射して変換した黄色の光が見える程度。同センター化学技術部の森岳志主任研究員は「実験で使用したLED光の数十分の1の強度の弱い光で同様に光らせることができれば実用化が見えてくる」と強調する。
光アップコンバージョンの研究には多くの企業が興味を示しており、同センターは日東電工と19年から共同研究を開始。現在は可視光を照射しUVを放出するフィルムの開発も検討しており、太陽電池フィルムの実用化に向けた取り組みを進める。再生エネの効率化に向けた研究開発の進展が期待される。
(2024/6/21 12:00)
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