社説/世界的「選挙イヤー」 米欧の”内向き”が中ロを利する

(2024/7/9 05:00)

2024年は多くの国で選挙が行われる「選挙イヤー」と呼ばれる。これまでの選挙戦では現政権への不満が噴出した結果が相次いだ。中でも懸念されるのが欧州で「自国第一」の右派が伸長したことだ。移民流入と高水準の物価で国が分断している米国の大統領選と構図が重なる。米欧の現政権は有権者の不満に真摯(しんし)に向き合いつつ、内向き傾向の現状を軌道修正したい。民主主義陣営の弱体化は、中ロを利するだけと警戒したい。

6月の欧州議会選挙は、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーの高騰や、移民・難民の流入、野心的な気候変動対策による生活者の負担増などを背景に、欧州連合(EU)に懐疑的な右派政党が議席の2割以上を獲得した。EUを主導するドイツやフランスの与党が大敗したことで、ウクライナ支援や移民政策に及ぼす影響を憂慮する。

同選挙で極右政党に大敗したフランスのマクロン大統領は、電撃的な解散・総選挙に動き、極右政党の過半数獲得を阻止したものの同党の存在感が残る。

欧州委員会の委員長には穏健な中道右派・フォンデアライエン氏が16―19日の欧州議会で再選される見通しで、適切な人事と言える。だが、欧州議会の議席は2割以上をEU懐疑派・右派政党で占めるため、EUの結束維持は不透明感を否めない。

4日の英総選挙は、野党・労働党による14年ぶりの政権交代が実現した。保守党の過去2人の首相による不祥事や無理な大規模減税だけが政権交代の理由ではない。EU離脱による輸入コストの増大、移民減少による人手不足に伴う物価高騰に有権者の不満が募っていた。内向きの政治が政権交代にまで発展した現実は示唆に富んでいる。

中ロは米欧の内向きを見逃さず、グローバルサウスの取り込みに動いている。BRICSは24年からイランやサウジアラビアなどが加わり10カ国の枠組みに拡大した。中ロは多極的な世界秩序の形成を目指し、民主主義陣営の弱体化を狙う。先進7カ国(G7)は過度な内向き政治を戒め、あらためて結束を確認する時期を迎えたと言える。

(2024/7/9 05:00)

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