(2024/7/19 12:00)
宇宙分野の中でもロケットのエンジン開発は世界で競争が激しい分野の一つだ。ネッツ(埼玉県鶴ケ島市、中村秀一社長)は、衝撃波によって発生する燃焼現象を利用した「デトネーションエンジン(DE)」を開発した。従来は推進剤に気体を使っていたが、液体で稼働できるよう改良を重ねた。8月には開発したエンジンを載せたロケットを打ち上げる。世界に先駆けた技術が盛り込まれた新型エンジンの誕生を追った。
ネッツは宇宙航空研究開発機構(JAXA)や名古屋大学などとDEを共同開発しており、2021年に気体の推進剤を使ったタイプを作った。気体を圧縮した状態で燃料タンクに充填し、燃焼室につながるバルブを開けると気体が一気に膨張して流入する。名古屋大学の笠原次郎教授は「気体を推進剤に使うと余計な労力がいらず、簡単な構造のエンジンを作れる」と強調。一般的にロケットエンジンの推進剤には気体より搭載できる量が多い液体が使われるが、開発初期は構造が単純な気体を推進剤に使うエンジンを設計して機能や性能を調べる。研究グループは21年に推進剤に気体を使うDEを搭載したJAXAの観測ロケットを打ち上げ、宇宙空間で性能を評価した。
21年の打ち上げ試験の成果を基に、約3年間かけて液体の推進剤で稼働するDEに改良した。具体的には、燃料にエタノール、酸化剤に液化亜酸化窒素(N2O)を使う。ただN2Oは液体と気体の間のような状態で存在するため、燃焼室に送り込む段階で液体に近い状態にするには圧力をかける必要がある。そこで推進剤を燃焼室に流入した後に窒素ガスを送って約50気圧まで加圧し、推進剤を液体の状態で供給できる仕組みを作った。
6月には観測ロケットに搭載する機器を組み上げて機能を検証するかみ合わせ試験をJAXA相模原キャンパス(相模原市中央区)で実施。開発したDEも組み込んだシステムの機器の接続や信号のやりとり、雑音による動作の乱れ、打ち上げ時の振動や衝撃への耐久性などの動作を確認した。試験後は発射場のJAXA内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)に運び、打ち上げに向けた組み立てや最終チェックを行う。
ロケット打ち上げ技術の要の一つがエンジンだ。JAXAの羽生宏人教授は「DEは世界中が注目するエンジンだが技術的に難しく、実証できているのは日本だけ」と強調。DEの製造を担うネッツは宇宙航空分野の推進系の事業が強みで、このノウハウを生かして世界初のDEの開発に携わってきた。ネッツの中村社長は「開発したエンジンは小型だがパワーがある。ほぼ民生部品で構築しており、低コストでの製造も見込める」という。また、開発したDEはロケットに限らず探査機への搭載も視野に入れており、より遠くの天体を目指せるかもしれない。観測ロケットの打ち上げまで1カ月弱、新たな世界初の成果となるか。打ち上げが待ち遠しい。
(2024/7/19 12:00)
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