(2024/7/19 12:00)
―執筆の狙いときっかけは。
「高齢ドライバーによる事故が多発し、政府で関係閣僚会議が開かれて警察庁と国土交通省に検討の指示が出された。私は免許制度を検討する警察庁と免許返納後の移動手段を検討する国交省の両方の検討会議に参加。後者では地域の移動手段のリソースを総動員して対処するなど良い議論ができた。ただ、今まさに移動に困っている人の足の確保には有効だが、マイカー利用者が貧弱な公共交通などに転換するのは厳しく、悶々(もんもん)としていた」
「(利用者に応じて運行が変化する)デマンド交通をうまく活用すれば、高齢ドライバーから見ても使える移動サービスになり得ると考えた。運輸総合研究所の宿利正史会長に思いをぶつけたところ、同研究所で議論を開始。宿利会長から、多くの人に課題を知ってもらうには書籍化が必要とのアドバイスを受け発刊に至った」
―移動困窮社会とはどのような社会を指しますか。今、日本では何が課題で、またその背景は何でしょうか。
「今後の日本は少子高齢化、人口減少に加え、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応で電動車の普及が進む。一方で平成の約30年間に日本人の給料がほぼ変わらなかったことや、内燃機関車に比べ高額な電動車の価格を加味すると、マイカー維持が困難になる層が増えると予想される。充実したモビリテーィサービスが安価で提供されないと、移動できなくなる層が増える懸念があり、このことを『移動困窮社会』と定義付けた」
―CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術を用いた研究開発が進んでいます。
「研究開発や実証実験は盛んに行われるが、なかなか社会実装に結び付かないのが現状だ。ユーザーの受容性、モノやサービスの事業性、またモビリティーサービスでは公的補助がないと成り立たない場面もあるが、自治体などの補助額の妥当性などさまざまな課題がクリアにならないと進まない」
―移動困窮社会にしないため、モビリティーサービスやそれを取り巻く関係者はどうあるべきでしょうか。
「今後の社会情勢やCNなどの要請に対して、将来のビジョンを描くべきだ。それを皆が自分事としてどう対応するのが良いか、考えていくような形になれば望ましい」
―目指すべき日本の姿は。
「誰もが取り残されずに、応分の負担で自由に移動ができるような社会を構築したい。そのためにはモビリティーサービスの供給サイドと需要サイドが、望ましい姿に向かって変革・変容していくことが大事だ。現在は、大都市以外はマイカー中心の社会になっている。マイカー維持費が高騰する中、次世代のモビリティーの姿を皆が意識すべきだ」
―本書で最も伝えたいことは。
「今のままの姿が継続できないとなると、どうしたら良いか皆が意識して考え、行動変容しないと『移動困窮社会』になってしまうのではないか。こうした危機感を共有してほしい」
(2024/7/19 12:00)
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