京大、iPSから大量の前精原・卵原細胞 4カ月の培養で100億倍超 生殖医療への応用期待

(2024/7/19 12:00)

ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から精子や卵子のもとになる細胞を大量に作り出す方法を京都大学の斎藤通紀教授、村瀬佑介特定研究員、横川隆太大学院生らの研究グループが開発した。約4カ月の培養で細胞の数を100億倍以上に増やせる。斎藤教授は「ヒト生殖細胞を試験管内で造成する研究の重要な第一歩になる」と期待する。未解明な点が多いヒト生殖細胞の発生の仕組みの解明や不妊治療など生殖医療への応用にもつながりそうだ。

脳や筋肉、肝臓といった体細胞は一代限りで役割を終える。これに対し、生殖細胞は遺伝情報を世代を超えて継承する唯一の細胞だ。生殖細胞の異常は不妊や遺伝的疾患の原因になる。

ヒトの場合、受精後2週目に最も未分化な生殖細胞である始原生殖細胞ができ、受精後6―10週目に精子のもとになる前精原細胞や卵子のもとになる卵原細胞に分化する。始原生殖細胞ができた後の分化の過程は倫理的、技術的な制約があり、多くの点が未解明なままだ。

京大の研究グループはヒト生殖細胞の分化を試験管内で再現する研究を進める。2015年、ヒトiPS細胞から始原生殖細胞によく似た性質を持つ細胞(PGC様細胞)を作製した。18年にはヒトPGC様細胞とマウス胎児の卵巣細胞を凝集させ、試験管内で卵巣の環境を模倣する培養法で、卵原細胞に分化させることに成功した。しかし、この方法は5000個のPGC様細胞から500個程度の卵原細胞しかできないなど効率が悪く、マウスの細胞を使う点も課題だった。

  • 培養72日目の卵原細胞㊧と培養92日目の前精原細胞(京大・斎藤教授提供)

今回、骨の形成にも関わるBMPというたんぱく質がヒトPGC様細胞を安定的に増殖させ、分化を促すことを突き止めた。5種類の異なるヒトiPS細胞から作製したヒトPGC様細胞にBMPを加えて培養した結果、2カ月ほどで前精原細胞や卵原細胞に分化した。染色体の数を安定的に維持したまま、約4カ月で細胞の数を100億倍以上に増やすことに成功した。

また今回のヒトPGC様細胞からの分化にはゲノム全域のDNAの脱メチル化が伴い、生体内の始原生殖細胞の分化過程で重要なエピゲノム再編成(エピゲノムリプログラミング)と呼ばれる現象が試験管内で再現されていることも分かった。

今回の成果がiPS細胞からヒトの精子や卵子を人工的に作ることにすぐにつながるわけではない。斎藤教授も「(研究成果を応用して)直接作った精子や卵子を使ってヒトを作るのは、かなり将来にできるかできないか、というぐらいの話かと思う」とクギを刺す。

開発した培養法は、ヒト生殖細胞でこれまで不可能だった多くの細胞を必要とする研究に道を開いた。斎藤教授は「(前精原細胞や卵原細胞が)大量にできるようになったので、精子や卵子を誘導する研究が飛躍的に、世界的に進むのではないか」と説明する。

(2024/7/19 12:00)

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