(2024/7/26 12:50)
日本が先行、実用化目前に
量子コンピューターが実用化されても解読されない通信インフラを目指し、量子暗号通信技術が開発されている。技術自体は実用レベルにあり、ユースケース開発が目下の課題だ。用途ごとに必要なスペックを定めて周辺技術をそろえ、既存の通信インフラと統合する。少し先の未来に備えてインフラを運用する人材や体制を整える。事業者の投資が必要な社会実装の一歩手前にある。長年、日本が負けてきたフェーズでもある。
「各国が量子コンピューターへの投資額を積み増している。実現は2030年と言われていた技術目標が前倒しされている」―。量子技術による新産業創出協議会(Q―STAR)の島田太郎代表理事(東芝社長)は量子技術の進歩の速さを強調する。量子コンピューターへの期待は大きく、国を挙げた開発プロジェクトになった。
量子コンピューターで計算性能が飛躍すると通信データを秘匿してきたRSA暗号が解かれるとされる。そこで暗号鍵を量子力学で守りながら伝送する量子鍵配送技術が注目される。暗号鍵は光子一つ分のレーザーパルスに載せて送り、光子が読み取られたら暗号鍵を廃棄する。盗聴を確実に検出し、通信の安全性を担保する。
東芝デジタルソリューションズ(川崎市幸区)の村井信哉シニアフェローは「技術はすでに実用レベルにある。これまで研究開発や標準化では日本がリードしてきた。残りは実用化」と説明する。例えば東芝は量子暗号通信とプライベート5G(第5世代通信)を組み合わせ、ロボットアームを遠隔操作する実証実験に成功した。
ロボットは5G無線でつなぎ、別の事業所から遠隔操作する。カメラの映像や制御信号は量子暗号通信で守り、盗み見られることはない。自由度と安全性を両立した。村井シニアフェローは「エネルギーインフラなど、セキュリティーの厳しい設備の保守を遠隔化できる」と期待する。
標準化では日本から提案した構成で国際電気通信連合(ITU)の勧告が成立した。量子鍵配送の機能要件やアーキテクチャー(設計概念)、鍵管理などが規定された。東芝の谷澤佳道フェローは「日本に不利がない」と説明する。技術開発の後でそぐわない規格が策定され、再度規格に合わせて開発し直す工数が発生しない。開発技術が素直に普及する道を歩んでいる。
この流れを加速するため内閣府は戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)でユースケース開発を進める。データを断片化して複数のサーバーに分散配置し、データを使う際にサーバー間で通信して目的のデータに直す。この通信は量子暗号技術で守る。全体で一つのデータベースのように振る舞う。
研究開発責任者を務める村井シニアフェローは「まずは金融や医療分野で実証したい。将来はオンプレミス(自社保有)管理で外に出せなかったデータを預けられる環境を作りたい」という。事業者の投資を引き出せるか注目される。
(2024/7/26 12:50)
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