天地人、衛星データ基盤を地球各地の課題解決に活用

(2024/7/26 12:50)

“宇宙の目”で精度高く

人工衛星が取得したデータを活用した宇宙ビジネスが注目されている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)発ベンチャーの天地人(東京都中央区、桜庭康人社長)は、地球観測衛星が撮影した画像のビッグデータ(大量データ)を活用した地球規模の課題を解決できるプラットフォーム「天地人コンパス」を提供する。農業やインフラ整備、再生可能エネルギーの活用といったさまざまな分野の事業発展に生かせる。

天地人コンパスは無料のオンラインプラットフォームで、登録すれば誰でも衛星データを見られる。有料版だと顧客の業務課題に合わせたデータの選別や分析などのサービスが提供され、さまざまな事業化の促進の支援となっている。例えば、農業だと顧客が育てる作物に応じて、蓄積した衛星データから栽培に適した土地の選定や栽培管理などを行える。従来では事業者の勘や労働力に頼っており、作物の味や収穫量が年によって変動するという課題があった。

  • 開発した宇宙ビッグデータ米

そこで日本人の主食であるコメの栽培について、スマホで水管理を自動化できるシステムを提供する笑農和(富山県滑川市)とコメ卸で国内大手の神明(東京都中央区)と共同で、衛星データを使って気候変動に対応した「宇宙ビッグデータ米」を開発した。近年の猛暑によるコメの品質劣化に対し、各地の表面温度や降水量といった衛星で得られたデータから適切な農地選定や水管理を実施して1等米の高品質なコメを作ることに成功した。

天地人の桜庭社長は元々IoT(モノのインターネット)を活用した農業を促進していたが、各地の天気や土地の情報などを得ることに苦労した。一方で、人工衛星が地球上の大量のデータを取得しているにもかかわらず、一般的にはあまり使われていないことを知ったという。桜庭社長は「農業を含めて、さまざまな分野のビジネスに衛星データを利用できると感じた」と話す。JAXAの持つリソースを活用するベンチャーの立ち上げにつながった。

最近では、衛星データを使って水道管の漏水リスク管理業務システム「天地人コンパス宇宙水道局」を進めている。水道管の点検作業者は高齢化が進んでいるだけでなく、音聴調査のため長年の経験が必要だ。また紙地図を持って歩きながら調べるため時間がかかり、デジタル化が進んでいない分野だった。

  • 宇宙水道局の画像イメージ。漏水リスクの高低差を5段階に分けており、最も漏水リスクが高い場所は赤色。天地人提供。

宇宙水道局では衛星で取得した漏水が多い地域や住宅街などの特色をデータでまとめ、人が調べる場所を絞って検査できる仕組みを作った。データを蓄積することで漏水箇所の特定精度が高まり、点検費用を約65%、調査期間は85%削減できるという。現在は日本国内の自治体に向けて宇宙水道局を提供しており、今後500事業体への提供を目指す。桜庭社長は「海外展開も視野に入れており、東南アジアや欧州にも提供したい」と意気込む。衛星データを活用したビジネスが、今後多くの分野や国で拡大するだろう。

(2024/7/26 12:50)

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