(2024/7/31 12:00)
「今から持っていくから今日中に頼む、という注文が珍しくない」。高周波焼き入れ専業の三河電波工業(愛知県豊田市)の岩本展幸社長は、短納期と高精度の焼き入れ技術で自動車部品メーカーのオーダーに応える。
高周波焼き入れはコイルに電流を流して磁力を起こし、コイルに近づけた加工対象物(ワーク)を表面処理して耐摩耗性や耐久性を高める技術。同社はその仕事を自動化することなく作業者の技でこなす。「ワークの形状によって作業は千差万別」(岩本社長)。ワークとコイルの距離を測りながら電圧を調整。ワークの送り速度やコイルに当てる角度、時間を見計らいながらの繊細な作業だ。
「焼き入れは一発勝負。焼き入れを始めて、焼き色など想定と違うことが起きると瞬時に電圧やスピードを変えることもある」。35年の熟練工である岡田聡さんは見極めの難しさを話す。それだけに重要なのが段取りだ。
ワークの形状によってどの部位から、どの角度で焼き入れするかを検討する。検討時間は長くても30分程度。焼き入れする部位が直径1センチメートルの端面であれば、まずコイルに近づけて余熱を加え、次いで端面全体を加熱する。コイルの形状はワークによって600種類の在庫から最適なものを選び出す。
シャフトは部位によって直径が異なることもあるため、部位ごとにコイルの大きさを変えてワークの送りスピードや回転数も調整する。「焼き入れする順番も、なるべく小径の部位から始めて焼き入れが重ならないよう工夫する」(岡田さん)
ワークの送り途中に焼き入れしない部位があれば瞬時に電流を止めて、その部位が過ぎれば焼き入れを再開する。「部品の用途や焼き入れする理由が分かれば加工もしやすいが、大半は分からないまま加工している」(同)。そうした中でも顧客の要請に応えるのが熟練の技だ。
自動車部品は開発のリードタイムが短縮し、金型部品などの納期も年々短くなっている。「短納期に応えるスピードこそ高周波焼き入れの強み」(岩本社長)。その姿勢に磨きをかける。
(2024/7/31 12:00)
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