社説/「終戦の日」に思う 2つの戦争の「二重基準」を憂慮

(2024/8/16 05:00)

政府主催の全国戦没者追悼式が「終戦の日」の15日、日本武道館(東京都千代田区)で開かれ、戦没者約310万人を悼んだ。終戦から79年。平和の尊さをあらためて心に刻みたい。

欧州と中東で続く“戦争”に終わりが見えない。ロシアもイスラエルも無防備な市民の犠牲を厭(いと)わず、人道状況は悪化の一途をたどる。その国際法違反の蛮行は、断じて許されない。

他方、二つの戦争に対する欧米の二重基準にグローバルサウスは不信感を抱く。西側諸国はロシアを激しく非難し、経済制裁を科す一方、米国が支援するイスラエルを非難しない。イスラエルの執拗な空爆でガザでの死者は民間人を含め約4万人に及び、残忍な人権侵害が続いている。その言語道断の行為は、ロシアと何ら変わりはない。

中東情勢は緊迫化し、イランや周辺国の武装組織も巻き込んだ戦闘へと発展した。イランによるイスラエルへの本格攻撃も近いとされる。欧米の二重基準を契機に、国際秩序と世界経済が脅かされないか憂慮する。

世界の対立構造は東西冷戦期の二極化から多極化に移り、欧米と中ロはグローバルサウスの取り込みを競う。グローバルサウスの欧米不信が中ロを利することにならないか懸念される。

ウクライナがロシアに越境した背景には米国の分断がある。トランプ前米大統領が返り咲けば、ウクライナの領土割譲で停戦となりかねない。ウクライナは停戦交渉を優位に進めるためロシア領内への侵攻を決断したとみられる。中国の台湾統一をけん制するためにも、ウクライナは米大統領選によらず領土を守り抜かなければならない。

唯一の被爆国・日本は世界とどう向き合うべきか。米国の核の傘に守られつつも、核なき世界の理想を追うことが日本の責務である。岸田文雄政権の「ヒロシマ・アクション・プラン」は、核兵器に使う濃縮ウランなどの生産状況の開示を核保有国に求め、米中には核軍縮の対話を促す。世界の指導者や若者を被災地に招くことも推進する。理想の実現に向け、現実的な対応を一歩ずつ進めていきたい。

(2024/8/16 05:00)

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