(2024/9/11 05:00)
2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成には、風力や太陽光など再生可能エネルギー由来の電力の導入が不可欠である。この電化社会を支える基盤技術として、蓄電池の性能向上に今、世界中の研究者がしのぎを削っている。
近年、マグネシウム(Mg)金属を負極活物質に用いた「マグネシウム金属蓄電池」は、リチウムイオン電池(LiB)に代わる次世代蓄電池として注目されている(図A)。その動作原理上、現状のLiBを上回る電気エネルギーを貯蔵することができる。また、マグネシウムは国内で産出される鉱物や海水にも豊富に含まれているため、他国に偏在するリチウムと比べて地政学的リスクが低い。
機能性電解液合成チームでは、電池を構成する3大要素材料である「正極」「負極」「電解液」のうち、主にマグネシウムに適合する電解液の開発や、電解液とマグネシウム負極の接触界面で起こる現象の理解とその制御に取り組んできた。
マグネシウム金属蓄電池の負極では、マグネシウム金属が電気化学的に電解液に溶けだしたり(溶解)、固体に戻ったり(析出)する「析出溶解反応」が起こっている。この反応が止まってしまう根本的原因が、電解液中に存在するマグネシウムイオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)との解離であることを、我々は突き止めた。
さらにこの知見に基づいて「解離状態を最適化した電解液」を開発しており、この世界最高レベルの性能を発現する電解液は、日本のみならずドイツやスロベニアの国家プロジェクトでも標準電解液に採用されている(図B)。
一方、電池の負極に用いる金属箔は、電解液との接触界面全体で均一に反応を起こさなければならない。電子顕微鏡による電極の形態観察から、マグネシウム金属は反応抵抗が空間的に不均一であることを発見した。
そこで我々は、反応分布を均一にする方法として人工被膜に着目している。電極表面でエッチングと被膜形成を同時に行い、電極全体を人工被膜で覆った。狙い通り、この人工被膜を介して反応が均一に進み、析出溶解反応効率は99・92%と実用電池レベルに達し、充放電のサイクル寿命も100倍以上に増えた。
現在、研究チームには、電池の3大要素材料を網羅的に研究する開発体制が整った。チーム内での有機的な連携により、これまで誰も成し得ていない「マグネシウム金属蓄電池のプロトタイプ第一号」の創出を目指す。(水曜日に掲載)
(2024/9/11 05:00)
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