(2024/10/11 12:00)
熟練技能の継承が多くの業界で課題になっている。名古屋市立大学データサイエンス学部の横山清子教授は、建設・土木業界の職種の中でも熟練技能が必要な塗装や左官作業、重機操作を分析し、データから暗黙知を引き出して教育用ツールの開発に生かしている。ウェブサイトでの公開を目指し、ゲーム感覚で暗黙知を学べる工夫などで利用効果を高める考え。若者を業界に呼び込み、定着に役立てたいという。
従来も熟練技能の分析では、作業の様子を撮影したビデオ動画が活用されてきた。手軽なツールだが、作業者の腕を動かす早さの変化や、道具を持つ角度など暗黙知の分析には適さない。熟練者自身も言葉で表すことが難しい領域とあって、横山教授は「暗黙知を分かりやすく見える化するために、科学的分析に利用できるデータ取得が必要だ」と話す。
そこで、データの測定、取得にはバーチャルユーチューバー(Vチューバー)の動作生成などでも使われる光学式モーションキャプチャーを用いる。身体の関節や手先、頭などに光を反射する小さなマーカーを貼り付け、周囲を複数のカメラで撮影し、それぞれのマーカーの3次元(3D)空間内での座標位置を連続して記録する。
3Dコンピューターグラフィックス(CG)キャラクターに関連付ければ動作を再現でき、塗装作業ならば腕を動かす早さ、コテを握っている手の甲の角度などを計測できる。
計測、分析の結果はグラフ、図などで可視化する。ローラーブラシで塗装する作業者の腕の動きを軌跡として可視化する実験では、上から下まで一筆で塗ったり、上段と下段に分けて塗ったりと作業者により3種類の方法があると分かった。
また、熟練者と非熟練者の作業を比べると、熟練者は軌跡の太さが一定なのに対して、非熟練者は軌跡の太さがふぞろいだった。この結果から「熟練者は腕を動かす早さが一定であることが分かる」(横山教授)という。
こうした視覚的な理解に加えて、作業中の力の入れ方や視線など直感的な動作を計測、分析して暗黙知を探ることにもアプローチしている。力の入れ方を見ると、熟練者はローラーブラシを下部から上部に引き上げる時だけ力を入れており、ムダな力が入らず、効率的に作業していることがデータで分かった。
これまでに得たデータを生かして、現在は中堅技能者向けのリスリキングに役立つ教材の作成に取り組んでいる。MR(複合現実)ゴーグルを用いて、熟練者の動作を再現した3DCGキャラクターに自身の動作を合わせるなどの機能を搭載したコンテンツの制作を進めている。
将来は人工知能(AI)とデータの分析によって明らかにした暗黙知を組み合わせ、熟練技能再現ロボットの開発などへの発展を視野に入れる。「建設・土木業界で働いてみようと思う若者が増えるように、研究で得た知見を生かしたい」(同)と、技能者の確保、育成への貢献を目指す。
(2024/10/11 12:00)
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