フッ素リサイクルに期待 立命館大学、温和条件で分解

(2024/12/20 12:00)

フッ素化合物は産業で広く利用されている一方、廃棄物の分解が難しく、環境残留や生体蓄積などの課題がある。立命館大学の小林洋一教授らは、難分解性で知られるパーフルオロアルキル化合物(PFAS)を可視光で温和にリサイクル可能なフッ化物イオンに分解する技術を開発した。持続可能なフッ素のリサイクルにつながる成果として期待される。

  • 室温、大気圧下で半導体ナノ結晶に可視光線を当て、PFOSを分解する実験 (立命館大・小林洋一教授提供)

フッ素化合物は耐熱性や耐薬品性、絶縁性、界面特性に優れ、冷媒や撥水(はっすい)・撥油(はつゆ)剤、農薬、医薬品など、さまざまな産業分野で必要不可欠な材料とされる。一方、炭素とフッ素の結合(C―F結合)が極めて強く、化学的に安定し過ぎているため分解が難しいのが課題で、環境中に長期間残留して水質汚染や土壌汚染を招いたり、生体内で蓄積されて健康に影響を及ぼすといった課題が顕在化している。

フッ素化合物を分解する既存の技術は高温、高圧下で強酸化剤を使うなど過酷な条件が必要だったり、使用制限のある水銀灯を用いた深紫外線照射を必要とするなど、代替技術の開発が急務とされている。温和な条件でフッ素化合物を分解できれば、フッ化物イオンから再度フッ素化合物へとリサイクルできる材料に転換可能となる。

小林教授らが開発した技術では半導体ナノ結晶を触媒に用いる。半導体ナノ結晶の高い光吸収特性に着目。室温、大気圧下で半導体ナノ結晶に可視光線を当て、深紫外線に相当する高いエネルギーを作り出す。このエネルギーをフッ素化合物の分解に利用する。

ドイツ化学会誌アンゲヴァンテ・ケミー国際版に6月掲載された研究成果では、硫化カドミウムの半導体ナノ結晶とフッ素化合物、添加物を混ぜた溶液に室温、大気圧下で波長405ナノメートル(ナノは10億分の1)の可視LED光を当てる実験を実施。PFASの中でもより難分解性のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)や、化学的に安定性の高いフッ素樹脂のナフィオンをフッ化物イオンに分解することに成功した。

PFOSは8時間以内に完全分解した。ナノ結晶のサイズを小さくするほど反応効率が高くなり、直径3・4ナノメートルのナノ結晶では4時間で93%分解した。一つのナノ結晶でC―F結合を1万7200回解離できることも確かめた。ナフィオンは24時間の光照射で81%の脱フッ素化を達成。フッ素樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、商品名「テフロン」)では表面を疎水性から親水性に変えることができた。

今後は他のさまざまなフッ素化合物で検証しつつ、より効率的な分解や実験のスケールアップなど実用化に向けた取り組みも進めていく。PFASなどのフッ素化合物が温和な条件で分解できるようになれば、フッ素材料のリサイクル技術の発展やフッ素の自給率の向上につながる。小林教授は「(光反応技術の)ライセンス化を通じて事業化し、企業と連携しながらPFASの無害化やフッ素樹脂のケミカルリサイクルを実現していきたい」と話している。

(2024/12/20 12:00)

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