(2024/12/20 12:00)
航空宇宙産業は工作機械に対する要求が最も厳しい業界の一つ。牧野フライス製作所は形状が複雑で高価な素材も多い航空機部品を高精度に加工するマシニングセンター(MC)を納めてきた。一方、製造業では慢性的な人手不足で省人化や生産性向上への対応が強く求められている。こうした複雑な要求に製品開発力で応え、先行き不透明な市場環境で航空機部品の加工需要を深掘りする。
「加工対象物(ワーク)と主軸の接近性が高く複雑な加工形状に対応できる」。牧野フライス製作所の金谷潤執行役員は新たに開発した5軸制御横型MC「a500iR」の特徴をこう強調する。
ワークを搭載するテーブルの垂直方向の回転軸の旋回範囲を広く確保するなどして、ワークに主軸を近づけて加工する接近性を向上。航空機エンジン部品のブリスクやインペラなどの複雑な加工形状にも対応しやすくした。
新型機では垂直方向の軸付近にテーブルユニットの重心がくる軸構造や高剛性な機械構造などを採用。加工が難しいチタンやインコネル、アルミニウムといった素材の航空機部品でも高い加工精度や能率を実現した。
主軸では毎分1万4000回転の最高回転速度に達するまでの時間を従来比25%短縮し、高速回転時の出力を同40%高めた。非切削時間と切削時間を共に短縮し、アルミの削り出し加工などで生産性の向上に貢献する。
またワークの最大寸法を直径で同30%増の900ミリメートル、高さで同50%増の600ミリメートル、積載量も同2・7倍の400キログラムに拡大。直径900ミリメートルのワークを加工する場合に提案していた同社従来機と比べて設置面積を50%削減でき、単位面積当たりの生産性も高めた。
人手不足には作業負担の軽減で応える。接近性の向上で複雑な加工形状に対応できる範囲が広がり、複数の機械で加工していた工程を1台に集約しやすくした。ワークを取り付けて機内に供給するパレットの向きを、段取り時は水平、加工時は垂直に向きを変えられる独自機構を採用。宮崎正太郎社長は「段取りには人による作業が必要だが、工程集約や水平段取りで負担を減らせる」と話す。
段取り作業の削減は人を介さずに加工する自動化の範囲を広げる。新型機では自動工具交換装置に収納できる工具本数を同50%増の90本に増強した。宮崎社長は「夜間や週末などに長時間の連続無人運転にも対応できる」と力を込める。
牧野フライス製作所は2024年4―9月期の航空機向けの受注が前年同期比55%増加し、25年3月期の全体の受注計画を従来比125億円増の2275億円に上方修正する一因となった。一方、25年はトランプ米次期大統領の政策が本格化し、市場の先行きに不透明感が増している。
同社は9月に米シカゴで開かれた国際製造技術展(IMTS)でa500iRを世界初出展。11月に都内で開催された日本国際工作機械見本市(JIMTOF)でも航空機部品のデモ加工を披露した。新型機は25年2月の出荷を予定し、受注の底上げが期待される。
(2024/12/20 12:00)
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