「アジアの価値観を代弁」 西日本シティ銀行特別顧問・久保田勇夫氏 

(2024/12/20 12:00)

―2019年刊の『令和への提言』に続く第2弾です。「戦後レジームからの脱却を」と題しています。

「二つの問題意識が底流にある。日本の政治・経済状況は大丈夫かということ、そして米国がどういう国かよく知られていないということだ。戦後80年を目前とする中で、米国との関係が表裏一体である戦後レジーム(体制)から思想的にも脱却し、主体的かつ能動的に動くようになるべきだ。私は日米がG2と言われた時代に大蔵省(現財務省)で日米交渉に10年以上関わり徹底的にやりあった。省内でも私の世代以降は欧米留学などを通じて米国と互角との自負があった」

―安倍晋三政権の評価が大きなテーマの一つになっています。

「決して礼賛する内容ではなく、むしろ逆だ。他方、安倍元首相が日本のあり方を提起した意味は大きかった。例えば15年8月の『戦後70年の首相談話』は功績の一つであり、極めて優れた歴史的文書だ。先の大戦への道のりを長期的な世界史の流れでとらえ、欧米諸国による経済のブロック化が参戦の契機になったと明示した。戦争に導いた日本の政治責任も述べている。こんな首相はいなかった。ただ、政策には正解も不正解もあった」

―経済政策「アベノミクス」については。

「大規模金融緩和の副次的効果で円高が是正され景気が良くなったことは、ある面で政治の成功と言えるだろう。だが本来の目的として日銀が掲げた物価上昇は失敗に終わった。政治の問題意識は誤っていなかったし、日銀の政策も最初はやる価値はあった。だが物価に効果がないまま続けた。市場は機能しなくなり、財政支出拡大で経済はおかしな方向に進んだ」

―どこに問題があったと考えますか。

「結論を得るために政と官で議論を尽くすべきだった。安倍氏は内閣の権限を強化する中で、官僚の人事権を掌握し結論を押しつけた。過去の首相、例えば竹下登氏は『どう思うか』を役人に聞き、議論を繰り返すことで政策の質を上げた。日本の官僚機構はシンクタンクであり、国際競争力がある数少ない分野。安倍氏がこれを壊したことは大きな弊害だ。給料は安く、権限もないとなれば優秀な人は官僚にならない」

―米国でトランプ氏が大統領に再登板します。

「1期目のトランプ氏は安倍氏を頼りにしたはずだ。初のサミットに臨むトランプ氏に、長期政権を担う中でつかんだ各国首脳との付き合い方を教えただろう。今回はそれがない。石破茂首相は“貸し”をつくれるか。トランプ政権を取り巻く状況の前回との差異が、どう反映されるかの見極めが必要になる」

―本書を通じて読者に伝えたいことは。

「日本は非常に大事な国だと感じてほしい。欧米以外で唯一の先進7カ国(G7)であり、世の中が動く時に世界を安定させる知恵を持つ数少ない国だ。欧米の一神教的な価値観ではない、アジアの価値観を代弁することで役立てると信じる」

(2024/12/20 12:00)

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