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(2024/1/31)
カテゴリ:商品サービス
リリース発行企業:株式会社オプテージ
~世界で初めて空間分割多重方式の有効性を確認~
株式会社オプテージ(大阪市中央区)とLQUOM株式会社(ルクオム、本社:横浜市保士ケ谷区、代表取締役社長 CEO:新関和哉、以下「LQUOM」)は長距離量子通信※1の社会実装を目指して、LQUOM社が持つ量子通信技術と、オプテージが持つ大阪中心部における商用光ファイバーを組み合わせた実証実験を行いました。
◆本実証実験のポイント
●大都市部の商用光ファイバーにおいて空間分割多重による位相安定化の有効性を世界で初めて※2実証
●外部環境が位相ノイズを通して長距離量子通信に与える影響を体系的に解明
●長距離量子通信の実用化に向けた大きな一歩
※2:2024年1月30日時点、LQUOM調べ
本実証実験は、長距離量子通信を商用光ファイバーで実現することに向け、光ファイバーの位相安定化技術を実証することを目的に行いました。量子通信では光ファイバー中において低ノイズで光子(1粒の光)を伝送することが不可欠です。現在有望視されている長距離量子通信の手法を実用化するためには、ファイバーの伸縮などに起因する位相揺らぎを低減することが技術的な課題となっています。過去の研究では、短時間での位相安定化しか報告されておらず、またその安定化方式が時分割多重※3および波長分割多重※4に限られていました。
今回の実証実験では、大阪中心部という環境において商用光ファイバーを用意し、空間分割多重による新しい位相安定化手法を用いて、位相ノイズの大幅な削減を実証しました。商用の光ファイバーでは気温や雨・風、電車や車等の環境に起因したノイズの影響を受けることが想定されます。そのため、数日間に渡って位相安定化が機能するのか、ファイバー設置環境によって量子通信のエラー率が影響を受けるのか、といった将来の実用化を見越した研究も行いました。
本実証実験を通して、大都市部の光ファイバーが持つ位相ノイズについて体系的な理解を得ただけでなく、新しい位相安定化手法を実証することができました。これは、実験室レベルで研究されてきた長距離量子通信を社会実装するための大きな一歩と考えています。
◆背景
量子通信は、暗号通信、分散量子計算、高精度時刻同期といった量子物理学に根差した通信・情報処理を行うインフラとして、世界的に大きな注目を集めている技術であり、その中でも特に情報セキュリティの観点で注目を集めています。量子通信は、量子力学の原理を利用した暗号化を可能にし、情報を盗み出そうとするとその情報は破壊され、その事実が検出されます。これにより、通信が盗聴されたことを確実に知ることができます。これは特に、量子コンピュータによって現行の暗号※5が破られるという脅威に対する重要な対策となります。
量子通信を社会実装する上での課題の一つは、通信の長距離化です。量子通信では、光子(1粒の光)を情報の単位として用います。伝送距離が長くなるにつれてその光子が光ファイバー中で減衰・消失するため、実行的な通信距離が限られるという問題があります。近年では、長距離量子通信の有望な手法の一つとして、光子の位相情報を用いた量子通信が注目を集めており、数100kmの距離での量子通信が報告されています。この手法においては、光ファイバーの長さが時間変動すると位相のズレを引き起こし、その位相ノイズが量子通信の失敗率へ直結します。そのため、光ファイバーの位相ズレを波長よりも高い精度で安定化する必要があります。光ファイバーの経路長は、通常10 km ~ 1000 km(104 ~ 106 m)の範囲で設定されます。一方で、長距離通信に使われる波長は1.5 μm(1.5 x 10-6 m)ですので、外部環境に起因した光ファイバーのわずかな伸縮を検出して補償する、位相安定化の技術が不可欠です。つまり、実験室レベルで原理実証された量子通信技術を実用環境へ適用するためには、実用環境下で光ファイバーが持つ位相ノイズを体系的に理解し、有効な位相安定化技術を実証・蓄積する必要があります。
過去の研究では、実用環境における位相ノイズの安定化については短時間での計測しか報告されてきませんでした。位相ノイズの発生要因として、気温・風・雨などの気象要因や交通機関の振動・騒音等の社会的要因が想定されるため、数日間に渡る位相ノイズの詳細な計測が不可欠です。また、位相ノイズを検出し補償するための方法として、これまで時分割多重と波長分割多重の方式が実証されてきました。我々は、空間分割多重という新しい方式の位相安定化技術を提唱し、その方式が実用環境ファイバーで有効であるか検証を行いました。
◆実験概要
本実験では、商用光ファイバーにおける環境要因を定量的に解析するために、オプテージ本社から地中・架空ルート(往復10km)を構築し、LQUOM社が開発した量子通信システムを組合せることで、実用環境における位相ノイズの計測と補償を行いました。本実験では、2本の並列ファイバーを用意して空間分割多重方式の位相補償を検証しています。この方式では、1本のファイバーを位相ノイズ計測に用い、もう1本のファイバーを量子通信に用います。そして、第1のファイバーで計測した位相ノイズを第2のファイバーから差し引くことで、第2のファイバー(量子通信用)の位相を安定化します。
この方式が有効であるためには、2本のファイバーが同じ位相ノイズを持つことが前提条件となります。そこで、2本の並列ファイバーの位相ノイズを同時計測し、その一致度を周波数解析によって確認しました。また、気象要因や社会的要因が位相ノイズに与える影響を理解するために、数日間に渡って位相ノイズの計測を繰り返しました。さらに、ファイバー設置環境の影響を理解するために、同一地区の地中ファイバーと架空ファイバーからそれぞれ位相ノイズを計測し比較しました。
◆実験結果
空間分割多重を用いた位相安定化が、大都市部の商用光ファイバーで有効であることが確認できました。2本の隣接する光ファイバーがもたらす位相ノイズは、計測したすべての周波数帯(1 Hz ~ 500kHz)で高い一致度を示しました。そのため、2本のファイバー間での差分を取ることによって、量子通信で使うファイバーの位相ノイズを大幅に削減できることを確認しました。計測した位相ノイズから、量子ビットエラー率と呼ばれる量子通信の指標を計算したところ、空間分割多重による位相安定化によって顕著な改善が見られ、この新しい位相安定化方式が量子通信において有効であることを世界で初めて実証しました。
今回初めて実証した空間分割多重方式の位相安定化は、大都市部の地中ファイバーと架空ファイバーの両方で有効であることも確認できました。また、将来の実用化を視野に、位相安定化技術が長期的に機能するか、実験による検証を行いました。数日に渡って量子ビットエラー率の時間変動を調べたところ、地中ファイバーは安定している一方で、架空ファイバーは数時間のサイクルで顕著に変動していることが分かりました。この違いは、架空ファイバーが外部環境(風・気温変動など)の影響を受けやすいことを示唆しています。そして、量子通信における位相安定化の観点に立つと架空ファイバーよりも地中ファイバーの方が好ましい、という新たな知見を得ることができました。
◆まとめ
実証実験を通して、大都市部の商用光ファイバーにおいて空間分割多重による位相安定化を世界で初めて実証し、また、外部環境が位相ノイズを通して長距離量子通信に与える影響を体系的に理解することができました。これらの成果は、長距離量子通信の実用化に向けた大きな一歩と考えています。
本研究の成果は、2024年1月30日に、プレプリントとしてarXiv上で公開されました。
論文タイトル :Space-division multiplexed phase compensation for quantum communication: concept and field demonstration
論文著者 :Riku Maruyama, Daisuke Yoshida, Koji Nagano, Kouyou Kuramitani,Hideyo Tsurusawa, and Tomoyuki Horikiri.
URL :https://arxiv.org/abs/2401.15882
◆LQUOMについて
LQUOMは、量子インターネットの実現に向けて、量子通信システム、量子中継器および関連技術の開発と製品化に取り組む、横浜国立大学発のスタートアップです。これまでの技術開発および横浜国立大学との共同研究によって、LQUOMは量子中継器に必要な基礎技術を保有しています。LQUOMは2023年にシリーズA資金調達をし、量子中継器の実現に向けた開発を加速させています。
◆技術解説
※1:長距離量子通信
数100 kmかそれ以上の距離での量子通信。古典的な光通信と異なり、量子通信では経路途中で光を増幅することや、検出・再送することで量子状態を破壊してしまいます。光ファイバーの距離が長くなるにつれて、光子の到達確率が指数関数的に減少する課題が、量子通信には存在します。近年では、量子通信を長距離化するために、光ファイバー中の光子損失の影響を受けにくい手法が提唱され、その実証研究が世界的に大きな注目を集めています。
※3:時分割多重による位相安定化
同一ファイバーの通信時間を、位相計測・安定化のための時間帯と、量子通信のための時間帯に分割し、両者を繰り返し実行する方法。
※4:波長分割多重による位相安定化
波長の異なる2つのレーザーを同一ファイバーに入射し、1つの波長で位相計測・補償し、もう1つの波長で量子通信を行う方法。
※5:現行の暗号
計算量的安全な暗号が採用されています。古典的なコンピューターでは整数の素因数分解を現実的な計算時間で実行できないことを以って、暗号の安全性を担保しています。量子コンピューターが実用化されると、素因数分解を現実的な計算時間で実行することが予想されており、量子コンピューターで解読できない暗号が必要とされています。
以 上
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