[ オピニオン ]
(2016/4/22 05:00)
くねくねと入り組んだ道を車で走ると、カーナビが頻繁に隣県に入ったことを教えてくれる。ヨシが茂り野鳥が舞うこの地は“公害反対運動の原点”と言われる▼栃木、群馬、茨城、埼玉の4県の計4市2町にまたがる渡良瀬遊水地は、東京ドーム約700個分の面積を持つ。足尾銅山の鉱毒被害を受け、1906年(明治39)に強制廃村になった旧谷中村の役場や神社の跡が一角に残る。村民らは元代議士の田中正造と体を張って抵抗したが、願いはかなわなかった▼地元在住で、正造の研究者でもある宇都宮大学名誉教授の高際澄雄さんは「村は消滅したが、いまや自然の宝庫となったことは歴史の逆説」と語る。旧村民が漁労やヨシの収穫の権利を守り続けたことが、広大な湿地の乱開発を防いだ▼苦難の歴史と自然の魅力を発信しようと、高際さんは自治体や有志とともに渡良瀬遊水地などの「日本遺産」認定を目指している。来春の文化庁への申請に向け、24日に開く会合で要件となる地域のストーリーの試案を示す▼正造らが辛酸をなめた渡良瀬下流域は2012年、水鳥の生息地を保護するラムサール条約に登録された。コウノトリも飛来する癒やしの地に、産業界が学ぶことは少なくない。
(2016/4/22 05:00)