[ トピックス ]
(2016/5/12 05:00)
熊本地震からまもなく1カ月。この間、自動車・半導体各社は被災した工場や調達網の復旧を急ぎ、生産再開の動きが広がってきた。トヨタ自動車は代替生産による部品供給で6日から国内車両組み立てのすべてのラインを稼働させた。ホンダや三菱電機も熊本県内にある工場の生産を一部再開している。東日本大震災後に策定した事業継続計画(BCP)が功を奏した格好だが、被害が大きい建屋や設備もあり、本格復旧にはもうしばらく時間がかかりそうだ。
トヨタ自動車は11日、国内の車両組み立てラインを引き続き16―21日もすべて稼働すると発表した。
トヨタは熊本地震の影響で操業を止めた車両組み立てラインを含め6日からすべてのラインを稼働させており、14日までの継続は公表していた。調達部品の在庫や海外からの供給状況などを見極め、来週の通常稼働を決めた。
熊本地震で被災したアイシン精機の子会社が手がける部品「ドアチェック」の不足で、トヨタは全国の車両組み立てラインを段階的に停止した。アイシンは被災したアイシン九州(熊本市南区)の稼働再開のめどを未定としているが、代替生産で部品供給している。トヨタは23日以降の稼働判断については、部品供給状況を確認しながら18日に決める。
ホンダは6日、熊本地震の影響を受けて操業を止めていた熊本製作所(熊本県大津町)の生産を一部再開した。再開したのは全地域対応車(ATV)に搭載するギアなどをつくる焼結加工ライン。ただ、同所の建屋および設備の一部は被害が大きく、復旧は8月中旬を見込んでいる。
ホンダ系サプライヤーの動きも、復旧状況に左右されている。八千代工業の四日市製作所(三重県四日市市)は、ホンダからの委託で作る軽自動車の生産を縮小している。熊本製作所からの部品供給が止まっているためだ。通常稼働に約半年かかるとみている。熊本県内には、グループ会社3社が事業所を置く。人的・物的被害はなく「通常稼働できる状況だが、熊本製作所が復旧しないことには始まらない」(笹本裕詞社長)。2輪車用焼結部品の九州ショーワ(熊本県宇城市)は設備に被害が出て「まだまだ復旧のめどがつかない」という。
【半導体、被災経験生かす】
半導体各社の生産再開にもめどがつき始めた。ルネサスエレクトロニクス、三菱電機、東京エレクトロンはすでに稼働を再開。ソニーも月末には一部で再稼働する見通しを出した。微細で複雑な工程が多いゆえ、生産再開に時間がかかるとも見られていたが、各社必死の作業で早期再開にこぎ着けた。これまでの大災害の教訓は、確実に生かされている。
2011年の東日本大震災で主力の那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災し、約3カ月の生産停止に追い込まれたルネサス。今回も生産子会社、ルネサスセミコンダクタマニュファクチュアリング川尻工場(熊本市南区)が被災したが、4月22日には一部生産を再開できた。
鶴丸哲哉社長は「東日本大震災後に見直したBCPが、かなり役立ったのではないか」と評価。「耐震強化や予備パーツの準備などが功を奏した」と振り返る。22日には生産能力を震災前のレベルまで回復させる見通しだ。
三菱電機も9日からパワー半導体工場(熊本県合志市)で、少量品について生産を再開。ディスプレー工場(同菊池市)も装置の修復など立ち上げ準備を進めており、20日に少量品から生産を始める計画だ。阪神淡路大震災での被災経験などから、一部で立ち上げ時のノウハウが生かされているという。
東京エレクトロンも東日本大震災以降、BCPの強化やマニュアルの見直しに取り組んできた。今回は主力の東京エレクトロン九州合志事業所(熊本県合志市)が、震災後10日程度で稼働を再開。6月末までには通常生産に戻す予定だ。
災害対策本部の早急な立ち上げと現場との密な連携、必要な物資リストを作成し優先的に送るといった対応が役立った。堀哲朗取締役常務執行役員は「工具類は設置場所を分散させるべきだった」と、早くも改善点を指摘。次につなげる構えだ。
ソニーはソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本テクノロジーセンター(熊本県菊陽町)で、画像センサーの組み立てやカメラモジュール生産などを行う高層階が被災。クリーンルームや製造装置が損傷し、検証を行っている。一方、ウエハー加工など前工程を行う低層階の損傷は小さく、5月末の稼働再開を目指して作業を進めている。
各社ともBCPの機能性や効果、課題の精査は今後進めることになる。より強靱(きょうじん)な生産体制の構築に向けて何をすべきか。検証と改善の重要性が、改めて浮き彫りになった。
(2016/5/12 05:00)