[ オピニオン ]
(2016/10/14 05:00)
東京都の一部地域で12日に発生した大規模停電は、送変電網というインフラの重要性を改めて認識させた。再発防止を徹底するのは当然だが、特定企業の責任だけでは事故を予防できないことも認識する必要がある。
事故を起こした東京電力ホールディングスによると、地下の高圧線用トンネル内でOF(油入り)ケーブルに何らかの障害が起き、火花が出て火災を起こしたとみられるという。事故後に送電系統を切り替えたものの、都内の停電が解消するまで1時間近くかかった。
OFケーブルは、絶縁油を含浸した紙で導電体を分厚く巻いたもの。架橋ポリエチレン(CCV)樹脂で絶縁したケーブルとともに、高圧送電に広く使われている。耐用年数は非常に長いが、いずれも万一、製造工程で微細なゴミやキズ、気泡などが残ると数十年後にその部分の絶縁が甘くなり、火花を発して破断することが知られる。
むろん電線メーカーは高圧電線についてはクリーンな環境で製造し、全量検査後に出荷する。敷設後には電力会社が点検する。しかし長大な送変電網すべての異常を事前に発見することは極めて困難だ。高度経済成長期に全国に建設された高圧送電線で、類似の事故が発生する危険は排除できない。
また電力事業者が今後、コスト最優先でケーブルや機器を調達すると、品質維持に“見えないコスト”をかけた製品が売れなくなる恐れもある。
今回の停電は日中に起きたことで影響が広がった。不幸中の幸いは電力需要の少ない秋だったため、他の経路から送電を復旧できたことだ。猛暑の電力需要期なら、もっと深刻な影響があったろう。
電力は最も重要なライフラインだ。発電所の緊急停止以外でも、こうした大規模停電が起きることを忘れてはならない。電力の全面自由化の初年度に、送電事故が起きたことを警鐘として受け止めたい。安全かつ低コストの送変電網を機能させ、万一の事故に備えるためにも電力機器メーカーと電力事業者の協力が必要だ。
(2016/10/14 05:00)