[ 科学技術・大学 ]

高速炉開発、世界で加速−日仏共同で実証炉

(2017/1/6 05:00)

世界的なエネルギー不足を解消すべく、各国で高速炉の研究開発が加速している。特にロシアや中国、インドは約10年後のナトリウム高速冷却炉の実用化を明言するなど、鼻息は荒い。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)をほとんど稼働できなかった日本も、実証炉の開発に乗り出す方針を決めた。実証炉については既にフランスとの共同研究も始まった一方で、建設費の分担などで課題もある。(福沢尚季)

■廃棄物量を低減

高速炉は、エネルギー値の高い(速度の速い)「高速中性子」による核分裂反応を利用する原子炉で、2030年代ごろに導入可能な「第4世代原子炉」に位置づけられる。主にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)を使用し、放射性廃棄物の量を減らせたり、ウラン資源の有効利用などのメリットがある。ただ、一般的な既存の軽水炉と違って冷却剤にナトリウムを使うことが想定されるなど、技術的な課題も多い。

高速炉の開発は4段階に分けて進む。基礎的な研究の「実験炉」、運転・保守技術の蓄積などが目的の「原型炉」、経済性の見通しなどを検証する「実証炉」、安全性と経済性を両立する「商用炉」の四つだ。開発自体は60年代以降、米国、ロシア、フランス、イギリス、ドイツで始まった。開発を中断した国もある一方、中国やインドなどは他国の技術を導入して新たに参入した。

■経験豊富な仏

米国は、多くの実験炉の開発・運転経験を持つ。核不拡散政策の変更で77年に原型炉の建設を無期延期したが、研究開発は継続中だ。英国は、実験炉・原型炉の運転経験があるが、北海油田の発見などを背景に計画を中止。ただし、将来的には高速炉サイクルへの移行が必要としている。

ドイツは実験炉の運転経験があるが、原型炉の建設中に、政策議論や財政難のため計画が中止。韓国は活発に研究開発をしており、2028年に原型炉の建設を予定する。

日本と実証炉の共同開発に取り組むフランスは、67―83年に実験炉「ラプソディー」を、73―09年に原型炉「フェニックス」、85―98年に実証炉「スーパーフェニックス」を稼働させた。高速炉について豊富な開発・運転経験を持つ。

高速炉の研究で一躍躍り出たのは国を挙げて原発の研究開発に取り組む中国。ロシアからの技術導入で実験炉を10年に初臨界させた後は、原型炉の段階を飛ばし、次の実証炉を25年ごろに稼働させる目標を掲げる。

■常陽ともんじゅ

日本の高速炉開発の歴史は、実験炉「常陽」(茨城県大洗町)に端を発する。常陽では高速中性子による燃料や材料の開発などが可能。消費した燃料以上の燃料を生み出す国内初の高速増殖炉として基礎研究を目的に建設された。しかし、07年発生のトラブルで現在も運転を停止している。その後、原型炉もんじゅを建設したものの、機器の点検漏れなど不祥事が相次ぎ16年に政府が廃炉を決めた。

そこで、日仏の企業・政府が共同で開発を進めるのが、ナトリウム冷却高速炉「ASTRID(アストリッド)」だ。日本原子力研究開発機構や三菱重工業、仏アレバNPなどが参画する。フランス国内で22年ごろから建設をはじめ、30年頃の運転開始を目指す。

アストリッドは高速炉の最終段階である商用炉に向け、採用する候補技術や安全性の実証をはじめ、照射技術や技術実証に活用する。

日本政府が期待を寄せるアストリッドだが、建設するかは19年に判断する。課題の一つは日仏両国の建設費の分担割合だ。建設費は明らかになっていないが、もんじゅの建設に5886億円がかかっており、アストリッドも数千億円規模となるのは確実。日本側もそれなりの負担を覚悟する必要がある。

  • 高速増殖実験炉「常陽」(原子力機構提供)

  • 高速増殖原型炉「もんじゅ」

  • アスリッドのイメージ図(国際原子力機関<IAEA>の資料を基に作成)

■有識者の懸念も

このため有識者からは、「日本の資金に頼っている印象があり、フランスのやる気が見えにくい」(東京工業大学先導原子力研究所の小原徹教授)、「フランスにお金だけ搾取され、知見を得にくいのでは」(日本原子力学会の藤田玲子元会長)と懸念の声も。また、「建設が30年代より遅れると、(中国などの台頭で)フランスがイニシアチブを取れなくなる」(原子力機構の佐賀山豊特任参与)との指摘もある。

仮に費用負担の問題が合意に至らず、アストリッドが建設されないとなれば、政府の計画は大幅な見直しが避けられない。

■官民挙げ協力を

日本の原子力政策は、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」が根幹となっている。プルトニウムを燃料とするもんじゅはその要と位置づけられてきた。

日本はプルトニウムを15年末時点で国内外で48トン保有しており、仮に核燃料サイクルを放棄すれば国際社会に不必要な懸念を抱かせる。資源小国の日本にとって電力の安定供給の観点から、中長期的に原発の利活用は不可欠のため、核燃料サイクルの推進を着実に進める必要がある。

一方で、多額の税金を食いつぶしたもんじゅの二の舞いは絶対に許されない。もんじゅの失敗を教訓に、官民挙げた高速炉の開発の推進が求められる。

(2017/1/6 05:00)

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