[ ロボット ]
(2017/1/13 05:00)
銀行の店舗で窓口業務をサポートするロボット:NTTデータ
金融機関の窓口に行くとロボットがサービス内容を案内し、店員に代わって来店客の質問も聞く。そんな実証実験を重ねながら、サービスロボットが得た来店客との会話データをもとに、新しいサービスを提供する可能性も見えてきた。
NTT データは、ヴイストンのコミュニケーションロボット「Sota(ソータ)」を用いて金融機関店舗における顧客対応支援の実証実験を2015年11月から重ねている。その実証実験は、2015年11月15日のりそな銀行豊洲支店を皮切りに2016年4月28日から岩手銀行、福井銀行、京都銀行、さらに同年7月20日には磐田信用金庫でも始まった。
銀行への来店客を迎え入れ、行員の案内業務を代行する
「銀行の店舗に来られたお客さまに対する窓口業務をコミュニケーションロボットで支援するため、昨年秋から複数の金融機関の店舗で実証実験を実施しています」(テレコム・ユーティリティ事業本部ビジネス企画室の鈴木秀一主任)
りそな銀行豊洲支店での実証実験では、来店客へのあいさつや案内業務を行員に代わってコミュニケーションロボットが行う。具体的には図1のように、1階の店舗から来店した顧客を天井のセンサーが捉え、その信号をキャッチしたコミュニケーションロボットが音声で「いらっしゃいませ」と来店客にあいさつし、さらに「ご相談は2階で承ります」と預金、融資などの窓口カウンターのある2階へ案内する。
2階の店舗にもコミュニケーションロボットが置かれ、来店客に「タブレットで受付してくださいね」とセルフ受付タブレットの利用を促したり、預金やローンなどの商品を音声で紹介する。なお、顧客の来店を検知した天井のセンサーの情報は、2階の執務室にいる行員に通知される。こうして従来は行員が行っていた案内業務を支援し、顧客から話しかけられると会話もする。
ちなみに、帰る顧客にも「ご来店ありがとうございました」とあいさつをする。※ 1
高度な知的処理を実行する基盤
「そうした顧客への対応を可能にするのが当社で研究開発中の『クラウドロボティクス基盤』です」(同)
それは、ロボットによる会話や状況判断および外部センサーとの連携などをクラウドで処理するシステムであり、高度な知的処理を行う基盤だ。クラウドロボティクス基盤(図2)には、「状況認識」「物体認識」「空間認識」「運用管理」の機能があり、それらの機能を実現するためにNTT サービスエボリューション研究所の完全クラウド対応型デバイス連携制御技術「R-env:連舞」※ 2 とNTT メディアインテリジェンス研究所の音声認識・対話制御・音声合成技術を実装している。
「クラウド側にロボットの脳に該当する機能を実装すればロボットも使いやすくなります」(同)
NTT データのクラウドロボティクス基盤は、顧客の音声データや各センサーのデータの解析から顧客の情報を認識し、ロボットを制御して顧客への声掛けや対話を促進する。つまり、音声対話やロボットの動作制御、外部センサーとの連携などロボットの知能をロボット自身ではなくクラウド側に持たせている。それにより、今後普及が見込まれるロボット側の低コスト化が可能になる。また、アプリ開発も容易にできるというメリットを提供できる。※ 3
コミュニケーションによって顧客の関心事がわかってくる
りそな銀行豊洲支店での実証実験に次いで、岩手銀行、福井銀行、京都銀行では、店舗ロビーや窓口カウンターで住宅ローンや教育ローンなどの簡単な商品紹介、また、磐田信用金庫でも口座開設の簡単な手続きや住宅ローンなどの簡単な商品紹介を対話形式で行っている。
これらの実証実験を行いながら、顧客への対応を行員に代わって支援する有用性を検証している。また、実用化の実証とともに対話情報の収集により、これまでに興味深いデータも得ている。「ロボットとお客さまの対話の内容を分析すると、何に関心があるのかがわかってきます」(テレコム・ユーティリティ事業本部ビジネス企画室の稲川竜一課長)
その1つに「口座を開設するためにはどうすればいいのか?」「そのためには何が必要なのか?」といった銀行サービスの基礎ともいえる事項に対する問いがある。あまりにも基礎的な事と顧客が捉えているからだろうか、「いまさら行員(人)には尋ねにくい」という心理が働いてしまうようで、ロボットなら気安く尋ねる傾向があるという。
これを顧客サービスに活かせば、「口座開設に必要なものはこれです」といった案内書の提供につながる。
また、単純なデータ収集ではあるが、センサーからのデータと対話の内容を組み合わせることで来店客の「年代、性別、人数」などを分析できる。こうした単純作業はロボットに適しており、データの蓄積によってマーケティングのツールに活用できる。
相手に警戒心を与えないメリットを活かす
「顧客からの情報収集という点でロボットは、フラットな存在であることが有効です」(稲川課長)
顧客とのユーザーインターフェイスの機能として情報を収集するうえで、ロボットは相手に警戒心を与えないという点が有効なようだ。たとえば、上述のような「行員には尋ねにくい」という心理を持つ顧客からすると、「(行員に)質問すると逆に営業されるのではないか」と警戒心が働いてしまい、ますます尋ねにくくなってしまうという。しかし、ロボットが相手ならばそうした警戒心も働かず、質問もしやすいようだ。であれば、そうした顧客へ金融商品の紹介をロボットに担わせることも新しいサービスの創出につながる。
実際に行員に対しては聞きにくいこと(気をつかってしまうこと)もロボットなら気安く尋ねられるという場面も見受けられた。また、ロボットからコミュニケーションを働きかけると人間も話しかけやすくなることも別の実証実験で確認できている※4。
今後は顧客の関心事を取り込んだ会話シナリオを追加し、継続的にアップデートしていけばさらにコミュニケーションを深化させ、顧客からの情報収集も進む可能性がある。
首都圏および地方の金融機関の店舗で進めているNTTデータのサービスロボット実証実験だが、現在までの経過から、サービスロボットは、人間(行員)の業務を支援するうえで有効なことが確認できている。また、業務支援を介して顧客がどんなことに関心を持っているのかを測る接点(インターフェイス)としても有効なことも確認できた。
「今後はその接点の有効性を高めるために多言語対応なども考えていきます」(同)
首都圏はさることながら地方にもインバウンドの影響で外国人が増えている。今後、金融機関の店舗にも外国人客が来店する機会が増える可能性がある。それに対するサービスロボットの対応力も上げようということだ。また、個人認証技術が向上していけば、外部デバイスと連携させることで来店客ごとの対応も可能になる。そうした顧客サービス力の向上を図りながら、2016年度中にサービスの商用化を目指す。
《参考》
【※1】外部(天井)センサーとロボットを連動させることで、入店方向だけでなく退店方向の人の動きも識別できる。ロボットのカメラだけでは、退店客の姿がカメラのアングルからすばやく外れていくためにその検知が難しい。しかし、外部のセンサーと連携させることで退店客を検知・識別でき、音声であいさつをするという制御が可能となる。
【※2】「R-env:連舞」とは、ロボットとデバイスをクラウド上で連携させるソフトウェア技術であり、アプリの開発者に、ブラウザのGUI を使ってアプリを開発し、複数のロボットとさまざまなデザイスとを連携させられる開発環境および実行環境を提供する基盤。
【※3】クラウドロボティクス基盤に実装される「R-env:連舞」は、ブラウザの GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)を使ってアプリを開発し、実行する環境を持っているためアプリ開発を容易にできる。
【※4】2015年3月~6月に高齢者施設での高齢者との対話、2015年8月に日本科学未来館で子供との対話によるアンケート集計および顔画像認識による年齢層、性別の推定を実施し、子供、女性がロボットとコミュニケーションしやすいことも検証した。
(2017/1/13 05:00)