[ オピニオン ]
(2017/2/16 05:00)
日本企業がインフラ輸出を急ぐあまり、巨額のリスクを抱えてしまった疑いがある。
東芝が2017年3月期決算に、米国での原子力発電所の工事に関して7125億円の減損を計上すると発表した。16年4―12月期決算も発表を見送る異常事態だ。15年に発覚した不適切会計で再建中の同社は、存亡の縁に立たされている。
深刻な事態を招いた背景には東芝の企業統治の問題や、原子力事業の困難さがある。さらに悩ましいのは、海外でのインフラ事業拡大の過程でリスクを見抜けなかったことだ。
東芝の発表によれば、損失の6割は効率低下や作業量増による人件費。3割は設備や下請けの調達コスト増という。工事の遅れや価格変動を予想できず、リスクを丸抱えして受注してしまった契約内容が想像される。こうしたリスクは、海外インフラの受注に共通したものではないだろうか。
日立製作所は南アフリカ共和国で受注した火力発電所のボイラー建設プロジェクトに関わる損失を巡り、三菱重工業と協議を続けている。日立と三菱重は火力発電システム事業を統合しており、南アの損失の分担が問題になっているからだ。三菱重が1月に日立に請求した額は約7634億円。それだけの損失が南アで出ているわけだ。
他の企業でも、新興国でのインフラ事業で工程混乱や原価上昇による損失に苦しむ例が散見される。いまだに顕在化していないリスクが他にもあるかもしれない。
日本勢はかつて海外プロジェクトに数多く挑戦し、中には手痛い経験もあった。その当時の主役は、総合商社やプラントエンジニアリング業者だった。いま新たにインフラ輸出に取り組んでいる企業に、そうした経験やノウハウが伝授されていないことを恐れる。
新幹線や衛星打ち上げなど今後の受注が有望な案件には、リスク回避のための対策を幾重にもかけなければならない。巨額損失の後始末だけでなく、そこに学び、次に生かしていくことを忘れてはならない。
(2017/2/16 05:00)