[ オピニオン ]
(2017/3/2 05:00)
さて、この白地をどう埋めようか―。寒さが緩む頃、人事考課のシートを配られ、心は逆に縮む思いだ。今期の自己採点と来期の目標設定。少しはアピールして目立つべきだろうか。
人間の欲求を5段階で理論化した「マズローの欲求段階説」によると、1段階目の「生理的」欲求が満たされれば次に「安全」「所属と愛」「承認」「自己実現」へと高次の欲求が生まれる。多くの会社員は、上司からの「承認」でもがく。
評価の多様性を考えさせられる映画に出会った。関西の機械商社が舞台の『切り子の詩(うた)』(近兼拓史監督)。大型受注を次々に決める同僚の横で、主人公の“万年課長”の業績はさえない。しかし、なぜか顧客満足調査ではトップ。
工具の新製品を誰よりも勉強し「これは座繰りがよくできる」と町工場相手に小さな契約と信頼を積み重ねていく。そこに精密部品の緊急対応案件が発生し、主人公が職人の人脈を駆使して東奔西走。納期に間に合わせる物語。
スクリーンに映る職人の流れるような所作に見とれていたら、後に本物の金属加工会社の社長の出演だと知った。「承認欲求」の段階など、とうに超えたであろう達人がわれわれの周囲にいる。焦りと高揚感を同時に味わった。
(2017/3/2 05:00)