[ オピニオン ]
(2017/3/17 05:00)
アートディレクターの長友啓典さんが亡くなったのが2週間前。弊紙ウイークエンド面で7年の長きにわたりコラム『友さんのスケッチ』を執筆して頂いていただけに、きょうの紙面を寂しく思う読者の方も多かろう。
旋盤工からデザインの道に転じた長友さんと一緒に事務所を起こしたのが黒田征太郎さん。その半生をモデルにした小説が、べらぼうに面白い。在日朝鮮人作家、梁石日さんの『海に沈む太陽』(筑摩書房)という長編。
複雑な家庭環境から転居を繰り返した少年時代、年齢を偽って船員になり、米軍の上陸用舟艇に乗り込み戦地にも赴いて死にかけたこと、暴力団まがいの詐欺商売に手を染めたことなど、息つく暇もない。もちろん盟友たる長友さんも顔を出す。
黒田さんの弟子筋に当たるデザイナーに、同書の話をした。すぐに読破し、あまりの破天荒さに黒田さんの秘書に真偽のほどを聞いたところ「ほぼ間違いありません」との回答。伝記とはうたっていないが実はノンフィクション作品だったのだ。
小説は黒田さんが長友さんと出会い、渡米するところで終わっている。ぜひ続きを読みたい。デザイナーであれ経営者であれ、立志伝中の人物の歩みは多くの人の心に響く。
(2017/3/17 05:00)