[ ICT ]
(2017/3/22 05:00)
日本の人工知能(AI)研究環境が充実してきた。4月には電機3社から100人規模の技術者が、理化学研究所革新知能統合研究センター(AIPセンター)に参集。産業技術総合研究所は人工知能研究センター(AIRC)に世界トップクラスのAI用スパコンを整備する。次に必要となるのは、データの取扱法やエンジニアリング部隊。AIで先行する米国をキャッチアップするには、これらの課題に産学官で対処する構想が求められる。(小寺貴之)
【精鋭を投入】
政府は日本のAI研究拠点として、理研と産総研に集中投資している。理研が基礎、産総研が応用と役割を分担。企業も国の投資に応えるように協調する。
理研が東芝、NEC、富士通の3社と設置する連携センターには各社が精鋭研究者を投入する。3社の合計人数は100人で、投資総額は30億円以上。3社合計で理研AIPセンターと同等の投資になる。
「数十社と連携を協議中。まだ増える」(杉山将センター長)予定だ。産総研AIRCには産学から392人の研究者が集まった。18年度には世界最大級の機械学習用スパコンが稼働する。
【データの貯蔵】
ただ、AI技術の実用化を推進するには、まだ多くの条件を整えねばならない。一つはAI研究に使うデータだ。日本の研究機関は目的ごとにデータを集め、ためておく必要がある。解析するまで必要なデータを絞り込めず、ストレージ代が大きな負担になる。
例えば日本自動車研究所が作製した自動運転の画像認識用映像データは走行距離約3万キロメートルに対し、データサイズが4・2ペタバイト(ペタは1000兆)。クラウド上にデータを置けず、磁気テープに保管している。関口智嗣産総研情報・人間工学領域長は「まずは研究の呼び水として研究機関がデータを保有し、事業運用の段階で企業に移譲していくことになる」と説明する。
【役割分担明確に】
技術をシステムに仕上げるエンジニアの不在も課題だ。研究者が開発したアルゴリズムを大規模運用に耐えるシステムに組み上げるにはエンジニアリング部門が必要だが、日本の研究機関にはない。
産総研の辻井潤一センター長は「研究機関もエンジニアリング部隊を抱えないと、いずれ苦しくなるだろう」と指摘する。一方、杉山AIPセンター長は「企業との連携で研究者のアイデアの実用化が進む」と今後に期待をかける。
AI活用で日本が競争力を高めるには、データとサービス実装、その移譲まで含めて、短期間で技術開発する必要がある。研究と事業が密接に協力しつつ、それぞれの分担を明確にする日本式の深い連携を確立していくことが求められる。
(2017/3/22 05:00)