[ 政治・経済 ]

【電子版】日米経済対話で来週初会合-両国間に思惑のずれも

(2017/4/12 14:00)

  • ペンス米副大統領(右、EPA=時事)と麻生太郎副総理

(ブルームバーグ)日米経済対話の初会合が今月18日、都内で開かれる。日本側は2月の首脳会談で協議したマクロ経済政策やインフラ協力などの3本柱に沿って詳細な議題を決めたい考えだが、米国側は貿易不公正の是正を優先課題に掲げる。思惑のずれも見え隠れしており、どこまで議論が進展するかは不透明だ。

経済対話は麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領をトップに据え、財政、金融などマクロ経済政策の連携、インフラ、エネルギー、サイバー、宇宙などの協力と2国間の貿易に関する枠組みについて交渉する。

米国第一主義を掲げるトランプ大統領は、企業に国内投資を求め、貿易や通貨政策で他国をやり玉に挙げる。各国が対応に苦慮する中、その批判をかわす対策として安倍晋三首相が首脳会談で提案した。個別案件で首脳同士の対立を回避すると同時に、インフラやエネルギー分野で貿易関係を強化し、「ウインウイン」の枠組みに持ち込む構えだ。

日本の目算

日本が第一の柱の「マクロ経済政策」に込めた狙いは、トランプ氏の日本批判を抑えることだと政府関係者は解説する。トランプ氏は首脳会談を控えた1月31日、アベノミクスの根幹である日本銀行の金融政策を念頭に「円安誘導」と非難。浅川雅嗣財務官らが反論に追われるなど政府内に衝撃を与えた。

三井住友アセットマネジメントの 市川雅浩シニアストラテジストは、「具体的な結論を求めていくというよりは、日本の金融政策の妥当性を米国に理解してもらうための方法」と分析。あくまで物価目標達成のための緩和政策であり、それは米国経済にも貢献すると説明するだろうと話した。

「インフラ・エネルギーなどの協力」では、日米双方に利益をもたらすことを演出する。日本の政府関係者によると、具体的には高速鉄道などの対米投資や米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入などが検討されている。

安倍首相は2月の首脳会談後の会見で、日本のリニア技術を紹介し、「日本はこうした高い技術力で大統領の成長戦略に貢献できる。米国に新しい雇用を生み出すことができる」と述べ、米国でのインフラ投資に意欲を示した。

TPP説得も

日本側は経済対話でトランプ政権が離脱を決めた環太平洋連携協定(TPP)の戦略的意義についても説明する方針だ。政府関係者は「貿易に関する枠組み」に関する協議で、TPP交渉で得た成果を復活させたい考えだと話す。

安倍首相は2月の訪米時、トランプ大統領にTPPの経済的・戦略的意義を説明。共同記者会見では「アジア・太平洋地域に自由かつルールに基づいた公正なマーケットを日米両国のリーダーシップの下でつくり上げていく」との強い意志をトランプ氏と確認したと語った。

一方、戦略国際問題研究所(CSIS)のマシュー・グッドマン政治経済部長は、米側は経済対話を2国間自由貿易協定(FTA)につながる枠組みと見ていると分析。日本が「財務相同士で議論することで合意した」と説明する為替問題が議題になる可能性も指摘した。18日の初会合には、日米間の通商協定の「優先度が高い」と話すロス米商務長官も参加する。

米商務省の資料によると、モノの貿易で16年の米国の貿易赤字は7343億ドル。対日赤字は9%にあたる689億ドルで、国としては中国に次ぎ2番目だった。

経済対話では厳しい議論が交わされる可能性もある。トランプ氏は3月、不公正貿易の是正に向けた2つの大統領令に署名しており、トランプ氏の指示を受けたロス長官は日本や中国を名指しして貿易赤字を抱える相手国との調査に取り組む意向を表明。先週の米中首脳会談では100日以内に貿易不均衡への改善策を取りまとめることで合意した。

「綿密な準備」

安倍首相に近い甘利明前TPP担当相は日本が経済対話の実現に持ち込んだ背景について「首脳間の信頼関係」があると分析する。首相は、トランプ氏が大統領選に勝利した直後に電話会談し、その1週間後にはニューヨークのトランプタワーで外国の首脳として初めて直接対面を果たしている。2月にはホワイトハウスでの首脳会談後、フロリダにあるトランプ氏の別荘を訪ね、ゴルフをプレーするなどして親交を深めた。

安倍首相は他国との首脳会談前には「綿密な準備」と「さまざまな気配り」をすると話すのは柴山昌彦首相補佐官。正式就任前にトランプ氏との直接会談に踏み切ったことについて、「交渉相手として重視、尊重してくれていると思ってもらうために、他の国はやらない早期のアプローチを行うことが非常に効果的だと思ったのだろう」と説明する。

タフ・ネゴシエーター

時に激しい言葉で相手を非難してきたトランプ氏。安倍首相との信頼関係にひびを入れない仕掛けとして、政府は当初から麻生氏を経済対話のトップに据える人事を描いていた。甘利氏は、「個別案件はぶつかる。ぶつかる役は次席以下にさせて、トップ同士は非常に良いケミストリーを持ち続ける。そうすればぶつかってもうまい修復ができる」と言う。

ペンス氏はインディアナ州知事時代、経済関係促進のために2度訪日している。インディアナ経済開発公社によると、1人当たりの日本の対米投資は同州が最大で、日本企業は5万人以上の雇用を生み出している。

しかし、日本の政府関係者によると、ペンス氏は通商交渉に関わった経験がないことを理由に、経済対話を取り仕切ることに最後まで消極的な姿勢を示していたという。甘利氏によると麻生氏は2月の訪米時にペンス氏にインディアナ州を50倍にすればいいだけだと説得。さらに、両氏が同席した首脳会談で、トランプ氏が麻生氏のことをタフ・ネゴシエーターと評し、ペンス氏が承諾する流れにつながった。

ホワイトハウス関係者は、ペンス氏は役職を引き受ける前に経済対話の枠組みが大統領の意に沿ったものであることを確認したかったとも話している。

ペンス氏のスポークスマンを務めるマルク・ロッター氏はブルームバーグの取材に対し、副大統領は日米関係の強化に資する今回の訪日を楽しみにしており、訪日は日米の経済関係と地域の安全保障環境を強化するという双方の目的に貢献すると文書で回答した。

(2017/4/12 14:00)

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