[ オピニオン ]
(2017/5/25 05:00)
明治から昭和にかけて活躍した知の巨人、南方熊楠(みなかたくまぐす)が生まれて今年で150年。在野の研究者として、博物学や生物学、民俗学など幅広い分野で大きな足跡を残した型破りな生き方は、いまなお多くの人の心を惹きつける。
熊楠は並み外れた記憶力を持ち、博覧強記で知られたが、興味のない科目には目もくれず、学業成績は必ずしもふるわなかった。大学予備門(現東京大学)を中退後、米英などで14年間の遊学生活を送った。
8年間暮らしたロンドン時代は毎日のように大英博物館に通い、古今東西の書物を読んではノートに筆写していた。英科学誌『ネイチャー』などに投稿した論文が掲載されるや、学識が高く評価され、世界にその名を知られた。
今月、長らく定住した和歌山県田辺市から名誉市民の称号が贈られた。どこにも所属せず、自らの好奇心を原動力に独学で道を切り開いた。何ものにもとらわれない姿勢を貫いたからこそ、今日の名声がある。
現代の研究者は熊楠的な生き方など到底できない環境にある。役に立つ研究ばかり重んじられ、短期で成果が出そうなテーマを設定し、研究費の獲得に汲々(きゅうきゅう)とする。熊楠のような気概を持つ研究者が日本で絶滅しないことを願いたい。
(2017/5/25 05:00)