[ オピニオン ]
(2017/7/17 05:00)
一体、何を目指しているのか―。米国が通商拡大法232条(国防条項)の制裁措置を発動すれば、世界経済の発展・成長に貢献してきた自由貿易体制が大きな脅威にさらされる。発動回避こそが賢明な判断だ。
トランプ米大統領が日本や中国などの鉄鋼製品を、国の安全保障を脅かす存在だとしてやり玉に挙げ、大統領の指示で米商務省が調査を進めている。
安価な輸入品に押されて自国の鉄鋼産業が衰退すれば、軍需用途の鉄鋼製品を国内調達しにくくなるとの理由からだ。クロと認定されれば、関税引き上げや輸入数量制限などの措置が発動される可能性がある。
世界貿易機関(WTO)は輸入品への制裁措置として、反ダンピング措置や相殺関税を協定で認めている。これに対して国防条項は米国が国内法で定めたものにすぎず、WTO協定に抵触するとの指摘がある。
日本の鉄鋼業界は制裁措置が発動された場合、協定違反としてWTOに提訴するよう政府に要請する構えだ。欧州連合(EU)も同様な態度を示す。
WTOへの提訴が相次げば、環太平洋連携協定(TPP)やパリ協定からの離脱を表明したように、米国がWTOから脱退する可能性も否定できない。しかし、それは軽率にすぎる。
WTO設立の目的は貿易を円滑に行うためのルールを整え、自由で公正な貿易を促進することにある。保護主義に凝り固まった閉鎖的な経済が国際的な対立を助長し、第二次大戦につながったとの教訓からだ。
こうして築いた自由貿易の枠組みに米国が背を向け、自国の利益ばかりを追求すれば、大きな混乱が生じかねない。
日本の鉄鋼輸出に問題があったかどうかも疑問だ。業界によれば、日本の対米輸出は米国の生産量の2%にすぎず、しかもその多くは米国内に代替品がない高品質で高機能な製品だ。
日本製品が選ばれるのは、需要家の厳しい要求に応えるべく研さんしてきた結果だ。この努力をないがしろにすれば業界の発展が阻害される。米政権はそれを肝に銘じる必要がある。
(2017/7/17 05:00)
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