[ 政治・経済 ]
(2017/8/9 05:00)
【行政機関と連携】
東南アジア諸国連合(ASEAN)の「工場」から「市場」への動きを先導するのが流通業だ。日本国内の消費が大きな伸びを見せない中、成長著しいASEANに熱い視線を送る企業は多い。
「ベトナムが重要なパートナーであることに疑いはない」。岡田元也イオン社長は6月7日、ショッピングセンター(SC)「イオンレイクタウン」(埼玉県越谷市)を視察に訪れたベトナムのグエン・スアン・フック首相らを前に、力説した。
この2日前、イオンはハノイ市人民委員会と、投資と事業推進に関する包括的覚書を締結した。イオンはSCの運営や金融事業などを通じてハノイ市の近代化に貢献し、ハノイ市はイオングループが円滑に事業展開できるよう協力する。
ベトナムでは2009年に小売業の外資規制が撤廃されたが不透明な面もある。事業拡大には現地の行政機関との連携が不可欠だ。
イオンは11年度以降「アジアシフト」を掲げ、ASEANへの展開を加速している。16年にはミャンマーに進出した。
【生鮮食品好調】
ベトナム1号店を出店したのは14年1月。西峠泰男イオンベトナム社長は「生鮮食品の売り上げが劇的に伸びている。(人々の買い物の場所が)ウェットマーケット(生鮮市場)から、近代的なスーパーマーケットにシフトしている」と語る。イオンベトナムは16年12月期には目標より1年早く、黒字化を達成した。
ファッションへの関心も高まっている。進出当初は「衣料品は『高くて買えない』という声が圧倒的だった」(西峠社長)。国際通貨基金によると16年のベトナムの1人当たり国内総生産(GDP)は2164ドル(推計値、約24万円)。10年前の約2・7倍と急成長しているとはいえ、依然、高い水準とはいえない。このため商品単価を2割程度、割安にしたところ、売上高は約3割伸びた。
【品ぞろえ工夫】
ほかの小売り企業もASEANに商機を見る。セブン&アイ・ホールディングスはセブン―イレブンを6月にベトナムへ初出店した。ドンキホーテホールディングスは17年冬に、東南アジア1号店となる店舗をシンガポールに開く。
ただ、ASEANで複数の国に進出している小売業の役員は「日本とは商慣行も消費者の感覚も違う。発想を切り替えなければダメ」と語る。“我慢”が実ったのが高島屋のシンガポール事業だ。
93年にシンガポールに進出したが、約10年間は赤字だった。近隣国の富裕層を意識した品ぞろえなどの工夫で、17年2月期は高島屋の連結営業利益の16%をシンガポールの百貨店とSCが稼いだ。
16年にはベトナムに進出し、18年春にはタイでの出店も予定している。木本茂社長は「シンガポールで稼いだ利益とノウハウを生かす」とASEAN市場の開拓に意欲を示す。(江上佑美子)
(2017/8/9 05:00)