[ オピニオン ]
(2017/8/29 05:00)
2017年の春の労使交渉(春闘)は、中小企業の賃金改善という新たな流れを生み出した。これは産業界が待望するデフレ脱却に寄与する。「同一労働同一賃金」実現のためにも、政府には引き続き、大企業との取引条件改善や現金決済などの徹底を進めてもらいたい。
自動車、電機、鉄鋼などの労働組合で構成する全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)がまとめた最終回答状況によると、ベースアップ(ベア)に当たる平均賃上げ額は1229円と昨年を5円上回った。このうち組合員数300人未満の中小労組は、平均賃上げ額1292円と昨年を57円上回った。
これに対し組合員1000人以上の大手は1128円と昨年実績を約200円下回り、300人以上・1000人未満の中堅は昨年とほぼ横ばいの1125円だった。金属労協傘下の中小労組の賃上げ額が大手を超えたのは集計を取り始めて以来、初めてという。
今春闘では自動車、電機など大手製造業のベア回答が前年を下回る水準で妥結する一方、中堅・中小製造業の賃上げが目立った。金属労協全体で大手回答額平均を100とした場合、中堅は99・7、中小は114・6となった。昨年は中堅が84・6、中小が93・1であり、その改善ぶりが分かる。
例えばトヨタ自動車グループ内で、ベア1300円の“トヨタ超え”を果たした製造業労組は全体の4割に達したという。自動車関連労組で結成する自動車総連の平均賃上げ額でも、大手の1123円、中堅の1113円に対し、中小は1316円と底上げを果たした。
人手不足を背景とした“底上げ・格差是正”の流れが、従来の“大手追従・準拠”の構図に変化を促したといえる。
ただ組合数で見ると、大手の約8割がベアなど賃上げを獲得したのに対し、中小は約5割にとどまる。労働組合や定期昇給制度が無い中小も多く、実質的な底上げには至っていないのが現状だ。内需拡大に向け、中小企業の経営改善につながる政策を望みたい。
(2017/8/29 05:00)