[ ロボット ]

WRSを目前に「ロボティクス・フォー・ハピネス」をアピール—モノづくり日本会議

(2017/10/10 05:00)

人間とロボットが共生し協働する世界の実現に向けて

モノづくり日本会議は8月30日、東京・内幸町のイイノホールで特別講演会「人間とロボットが共生し協働する世界の実現に向けて」を開いた。経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共催。2020年のワールド・ロボット・サミット(WRS)開催に向け、ロボット分野をけん引する識者が登壇して、WRSのメッセージである「ロボティクス・フォー・ハピネス」についてアピールした。

ワールド・ロボット・サミット実行委員会委員長 東京大学名誉教授 佐藤 知正氏

■衆目集め社会変革

WRSは競技大会、展示会、シンポジウムで構成される。競技については、良い目標と良い場で顕彰や競争が行われれば、組み合わせた価値が生まれて衆知を集め、科学技術による社会変化につながると考えている。展示は産業技術を見える化することにより、人々の感動を誘い産業振興となる。有名な例は万博だ。

ロボットの発表の場は二つあると考える。一つは学術講演会や国際会議などで分析的な知識を公開するもの。動作が1回でも成功すれば良い成果として、研究者が知識と知見を発表する場だ。しかし実はロボットはインテグレーションも大事である。パフォーマンスを見せるために、競技会や展示会といった場面で発表することも重要だ。そうした場でロボットがちゃんと動くことはそう簡単ではない。

WRSの目的は衆知と衆目を集めて社会変革をすること。ぜひ趣旨を理解いただきたい。

経済産業省 製造産業局産業機械課 ロボット政策室長 安田 篤氏

■官民挙げて社会実装加速

ワールド・ロボット・サミット(WRS)の背景としてロボット市場の伸びがあるが、まず産業用ロボットは特に中国で導入が増えている。サービス用ロボットの市場も急速に立ち上がりつつある。高齢化社会に向けた介護と、インフラ点検の分野が特にニーズが高まっている。技術と社会実装を加速するためにWRSで競技を設定した。

2014年に安倍首相が日本はロボットの産業革命を起こすと発言し、ロボット革命実現会議、さらにロボット新戦略につながった。15年から5年間を集中実行期間と位置づけ、官民で1000億円以上の投資をするほか、市場規模を現状の4倍にする目標などを掲げ、WRSを通じてイノベーションも促進する。ロボットを利活用する重点分野としてモノづくり、サービス、介護・医療、農業、インフラの五つをあげている。

WRSのコンセプトとして、人とロボットが共生・協働する社会を実現するために競技・展示を設計している。社会実装と研究開発を加速する機会にする予定だ。企業にとってはまずユーザー視点で最先端の技術が収集でき世界トップレベルの開発者との交流や人材獲得ができる。メーカーサイドからは新たな技術の実用化や、要素技術・部品の品質のアピールができる。

競技はモノづくり、サービス、インフラ・災害対応、人材育成のためのジュニアの4分野8種目で行う。チームとしての参加やサポートにも加わっていただき、官民挙げて是非成功させたい。

特別講演1/カーネギーメロン大学 ワイタカー冠全学教授 金出 武雄氏

■ロボ技術 3方向へ進化

ロボットは歴史的に見て古くからある。自動的に動く機械というふうに捉えると欧州のオートマータは12世紀からあるし、日本のからくり人形は江戸時代からある。これらはいまのコンピュータープログラムと違い、機械で動きのプログラムを作るもの、というとらえ方ができる。

本来の意味のロボットで見ると、コンピューターでプログラムすることが可能になったときに大きな技術の進展があった。工業応用ができるようになったことが大きい。1960年代の中頃にはマン・アンプリファイヤーといって何トンという力を人間が出せる機械を米ゼネラル・エレクトリック(GE)が作ったりしている。

ロボット技術の進化は三つの軸方向へ向かって進んでいる。一つは、ロボットがメカニズムという概念から離れて情報によって駆動するものになる、という方向。かつてのロボット技術は力をアンプリファイ(増幅・拡大)してきた。そして、人工知能(AI)が知能を拡大するというものであればロボットと組み合わせ、メカニズムを超えて情報によって駆動する知的システムとなりさまざまなことができる。

カーネギーメロン大学で80年代のはじめに手がけたプロジェクトがある。子どもたちが英語の本を読む音声を認識する。音声認識の機械はどう読むべきかということをあらかじめ学んでおく。当時の音声認識技術なので大したことはできなかったが、子どもたちが正しく読んでいるかどうか分かり、それに従い適切な問題を与えていた。これは機械はないがロボットといえる。

次の軸は、クオリティー・オブ・ライフ・テクノロジーと呼んでいるもの。介護福祉や、健康な方も含めて人の生活を優しくするというテーマにロボット技術の傾向が移行している。これまでロボットは人の代わりに、という考え方だった。今後は人と共に、人のためにという概念で技術が進展する。

私は単に物を認識するだけでなく、人の動きを完全にトラッキング(追跡)できる機械に取り組んできた。この技術がないと、ロボットは人が何をしているか分からず人を助けようがなくなる。単に、この人は座っているとか、そういう単語のようなレベルでは本当の意味でトラッキングできていない。研究では、ビデオ画像だけで人の指や踊りの様子を高いレベルで追跡できるようになっている。このレベルなら、もっと違う生活支援ができるようになる。

最近の研究を一例として示す。雨の夜にドライブすると、雨粒が白く見えて視界の妨げになる。水滴は透明のはずだが、ヘッドライトの光が雨粒に反射して白く見えてしまう。解決するのは非常に簡単で、雨粒に光線を当てなければ良い。そこで、カメラと光線を出すプロジェクター、コンピューターを組み合わせてシステムを作った。雨に光を少し当て、跳ね返った光で位置を確認する。そして、雨粒に光線が当たらないように調整する。

三つ目の軸は、ロボット単体の進化ではなく、ロボットとロボットが働く環境をトータルで考えていかない限り、ロボットはうまく動かないという観点。これからは環境を含めた全体でロボット技術は進化する。

カーネギーメロン大学でも農作物の収穫に使うロボットを研究してきた。だが、刈り取りや収穫だけをロボット化したところで、農業が効率化できるとは限らない。農業はたくさんの工程がある。どういう虫が悪さをするかとか、そういったことを自動的に測って、データをロボットと結びつけることで農業は良くなる。トータルシステムとして研究開発する考え方が必要だ。

ロボットにとどまらずあらゆる研究の促進には競争が必要だ。競争が起こり、その後コラボレーション(協働)が起こる。研究開発が盛んになると地域振興にもつながる。米国のピッツバーグは80年代に最盛期から人口が約4割減り衰退した町になった。だが、現在はハイテク研究が集約して「ロボバーグ」などと呼ばれ注目されている。WRSもそうした地域振興につながれば社会的な意義が増す。人と人との交流も大事だ。面白いテーマを持った人が集まれば、新しいことを考える人が増えていくはずだ。

特別講演2/カリフォルニア大学 サンディエゴ校教授 ヘンリック・クリステンセン氏

■製造・サービスに大革命

ロボティクスが今後どう展開し、未来はどうなっていくかを語りたい。まず大きなトレンドとして、大量生産からマスカスタマイゼーションへ、ということ。私たちは消費者として自分だけの商品、例えば自動車やオーディオシステムを求めるようになっている。そうなると自動化で生産するのは難しい。また、世界は高齢化が進んでいる。特に日本では他の地域よりも早いペースで進んでいる。未来の社会において、いかに質の高い生活を提供できるかが問題になってくる。

良いニュースを取り上げると、携帯電話などを使い過去2年間で世界の演算力は急速に拡大している。ビッグデータを入手できるようになってきた。これからの本当の意味での革新はIoT(モノのインターネット)や自律運転車で起こる。今私たちはその大きな革命の先端にいる。演算力に人工知能(AI)などを掛け合わせることで、今まで見たこともない製品を設計できたり、わくわくする世界観が生まれるようになるはず。そこにロボティクスが果たす役割がある。

そうなると製造ラインにはロボットが自然な形で入ってくる。自動車は作りやすい設計になってきていて、人が介在する必要性がなくなってきている。携帯電話を平均的に1年で買い替えるのだから製品の寿命は短くなり、スマート工場ならば設計も1ラインを簡単に構成し直していくつもの製品を流せるようにしなければならない。そこで人間と一緒に作業する協業的なロボットが工場で使われるようになる。簡単なメカニズムを用いたスマートアシスタントだ。

専門サービスを提供してくれるロボティクスはどうなるか。私たちが求めるものを教育を受けたロボットが教えてくれるコンシェルジュロボットが現れる。それからようやく出回ってきた自動運転車だ。2020年に大手自動車メーカーが自動運転車をさらに出してくればかなり普及するだろう。自動車を所有しなくても職場まで乗せていってくれるようになる。都市部で駐車場が不足している状況も含め、社会が大きく変化するはずだ。

既に世界中で7000機ある無人航空機も、規制の問題はあるものの、テクノロジーとして展開の準備はできている。10年、15年後にはパイロットの仕事はなくなっているかもしれない。

介護や運動機能を補助するロボットも今後出てくる。高齢者の友人になってくれるロボットも。ビジネスとして考えると、介護付き施設に高齢者が入ると米国では年間8万ドルかかる。自宅で過ごせればそれが2万ドルになる。6万ドル節減できればロボットが買えてしまう。そこに大企業が参入する余地が生まれるはずだ。

こうした大きなコンピューター革命の中で、教育はどう変わっていくか。ロボティクスを進めて行くには個別化された教育が必要で、皆がロボット専門家になるべきだと思う。ロボットを使ったよりよい初等教育で、デザインやエンジニアリングについても学んでもらう。

科学、技術、工学、数学の「STEM」という考え方があるが、そこにアート(A)が加わった「STEAM」が必要になる。WRSなどを通じて、ロボットは専門家だけでなく一般の人たちに使ってもらうようになるはず。そのためロボットには使い良さも含むデザインが重要となってくる。

ロボティクスは素晴らしい形で大きく成長しているところだ。センサー技術も最先端のものに成長しているし、カメラも処理系基盤など演算部分も安価になってきている。ロボティクスはメカニカルなシステムというより、今後よりスマートに、よりインテリジェントに進んでいくだろう。

これからロボットをインターネットにつないでAIを使い、センサー技術を駆使すれば、製造業であれサービス業であれ、大きな革命をもたらすことができる。ただ、次の世代の市場がどうなるか、人をどう介護し、どんな新しい娯楽を提供するかといったことはまだわかっていないことも多い。だからこそWRSを開催する。研究を通じ社会に適切であるか考え、日常生活の中で使える堅牢(けんろう)度の高いものにしていかなければならない。

特別講演3/トヨタ・リサーチ・インスティテュート最高経営責任者 ギル・プラット氏

■日本がロボAIを先導

三つの共感について話したい。一つ目はロボット間の共感。次にロボットと人間の間の共感。三つ目はロボット研究者への共感だ。

30億年の生命の進化を振り返ると5億4000万年前にカンブリア爆発が起き、生物の形が大きく変わった。これは「目」が誕生したためだと考えられている。お互いを見られるようになり、食べ物を探し、捕食者から身を守れるようになった。視覚によって動物の進化が加速した。まさに同じことがロボットの世界でも起きている。ディープラーニング(深層学習)のおかげでロボットは世界を見て認識できるようになった。そして音や声を聞いて理解できるようになった。これは非常に大きな変革だ。

次にホモサピエンスは7万年前にコミュニケーションを獲得し、抽象的な意味や対話を通じて社会を構築した。小さな動物の集まりが、何万、何百万という社会としてつながった。この進化はまだロボットでは起きていないが、まさに起きようとしている。

それがクラウドロボティクスだ。ロボットの頭脳はどこに存在するべきか考えてほしい。膨大なデータ量、グローバルな通信環境、そしてまだまだ小さい電池容量。これらを考えるとロボットの頭脳はロボットの中ではなく、クラウドに置くべきだ。すべてのロボットが、お互いの体験から学ぶことができる。これはホモサピエンスがコミュニケーションで社会を構築し、協業できるようになったことと同じだ。あるロボットが新しいことを学んだら、その体験をほかのロボットと共有する。このインパクトは大きい。

人間は同時に何人の話を聞けるだろうか。私は1人。みなさんは2人ならどうにか聞けたとしても、3人は無理だろう。コンピューターはどうか。恐らく100万以上の情報を同時にやりとりできる。そして経験を共有する。そのためには機械学習を追究して、「思考」を実現させたい。これは非常にエキサイティングな研究だ。何百万というコンピューターが協調する分散型の学習技術や、膨大な情報から不要な情報を捨てる技術も重要になる。

次はロボットと人間の間の共感について「不気味の谷」という現象を挙げたい。ロボットを人間に似せていくと、ゾンビや機械人間のような不気味さを感じるようになる。この不気味の谷を越えると本当に人間のようなロボットができる。

一方、DARPA(米国防高等研究計画局)の競技会「ロボティクスチャレンジ(DRC)」では観客がロボットの一挙一動に沸いた。ロボットが転ぶと悲鳴が上がり、ロボットが階段を上ってゴールすると、月面に着陸したかのうように喜んでくれた。この力で不気味の谷を越えられる。

最後に、ロボット研究者とロボット競技における人間同士の共感について触れたい。DRCは2011年の東日本大震災を受けて競技会をデザインした。災害に強い社会をつくることが最重要テーマだった。そして産業に刺激を与えて、競技会を触媒とするかを考えた。まず放射能災害では人間が防護服を着て現場に駆け付けることが難しい。そのため人間が遠隔地からロボットを操作して現場に投入することになる。そこでDRCでは通信が確保できず寸断される場面を設定した。最小限の通信量の指令でロボットを動かす技術と、限られた情報からロボットの状況を予測する技術を参加チームに求めた。

日常生活に例えると、店にいるのに携帯がうまくつながらない状況を考えてほしい。妻に買い物を頼まれたが、それが何かわからない。そこで妻の欲しそうなものを考える。この予測ができるのは私の脳に妻の予測モデルがあるためだ。ロボットも同様で、通信が悪くても予測で対処する技術開発を促し各チームはそれらを実現した。

そして最も大きい成果が人材だ。世界から人材が集まり、運営ボランティアは300人以上、参加メンバーは500人以上で、1万人以上の観客が来てくれた。開発を競ったメンバーたちはその後、ベンチャーをいくつも起業し、成功している。WRSによってロボティクス分野は大きく変わるだろう。特に日本は高齢化社会に向けて、世界をロボットAIで先導していってくれるだろう。テクノロジーをリードする素晴らしい人材を輩出できるだろう。

(2017/10/10 05:00)

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