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【電子版】経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~(4)

(2017/10/27 05:00)

【産業政策としてのインダストリー4.0と国際標準化による「グローバルエコシステムの設計」】

産業政策としてのインダストリー4.0と国際標準化活動

 インダストリ4.0はドイツの産業政策である。製造設備産業のモジュール構造設計を行い、その「モジュール間インターフェイス(以下IF)を早期に国際標準」とすることで、グローバルなエコシステムによるオープンイノベーションを加速しようという戦略である。

なぜ「モジュール間IFの国際標準化」が重要なのだろうか。その背景には、ハイテク産業や巨大で複雑な産業・社会システムの構造設計における下記のようなシステム思考があるからである。

a. システムは、全体システムとそれを構成するモジュール構造から構成され、各モジュールもさらに細かなモジュール構造から構成されるフラクタルな階層構造となる。

b. システム・イノベーションを実現するには、モジュール単位で新旧を入れ替えることにより行う。モジュール入替を可能とするには、モジュール間IFの標準化を行い、モジュール入替が他の要素に影響を与えることが無いようなシステム構造にしておくことが有効である。

c. IoTや第4次産業革命に国境はない。長期に及ぶ巨大な産業・社会のシステム設計活動なので、モジュール構造設計やモジュール間IFの国際標準化活動はグローバルなエコシステム構築を加速する上で極めて重要である。

d. このためドイツ科学技術アカデミーが、インダストリー4.0で政府に要請した主要事項の一つは「標準化活動の推進支援」であった。

政策的なオープンイノベーションモデルが必要になってきた背景

巨大な産業・社会システムにおけるイノベーションの課題は主に下記の3つである。

①産業や社会システムが複雑になればなるほど、将来像が見えにくく技術開発の目的・目標が定めにくくなってきたこと。②たとえ、単独の技術や製品が開発されても、市場開拓活動に費用と期間が必要になってきたこと。これは、単独の製品や技術だけで機能することが少なくなり、他社の製品と組み合わされて活用されなければ本格的な市場が顕在化しなくなってきたからである。

③この結果、収益を生むまでの期間が長期化し、リスクは拡大、グループ内・社内の収益キャッシュフローに依存した投資意思決定は容易ではなくなってきた。

政策的なオープンイノベーションモデルでは、関連企業から構成されるコンソーシアムを形成されるオープンイノベーションの場を政策的に組織化することにより、下記のように前述した3つのイノベーションの課題を解決することを狙っている。

① ユーザーニーズを早期に明確化できること

ユーザー産業が当初から参画したコンソーシアムにより新産業の外部機能設計が行われることで、マーケティングやセールス上のリスクは圧倒的に小さくなる。

② 技術開発のターゲットが早期に明確になること

新産業の創造は、その全てが新技術で構成されるわけではない。モジュール構造を設計することで、既存技術が適用できるところはどこか、新たに開発しなければいけない技術は“何か”、いつ頃までに必要か、その需要規模はどの程度か、が早期に明らかになる(需要表現)。

③ リスクマネーが投入できること

開発にリスクが大きい技術は、ベンチャーキャピタルやファンドなど資本市場からのリスクマネーの投入が可能である。このインパクトは極めて大きい。行き場の無い投資資金は世界に溢れているからである。

1980年代の日本の製造業

1980年代に日本の製造業が圧倒的な競争優位を確保できたのは、企業グループでの製品開発が極めて有効に機能し円滑なコミュニケーションとリスクシェアが可能であったこと、国内にほとんどの産業が存在するいわばフルセット型産業構造を有していたこと、土地本位制と間接金融による含み資産経営でのファイナンス機能を有していたことにより、イノベーションの3つの課題を、いわゆる自前主義でクリアすることに成功していたから、と考えると理解できるのである。

(隔週金曜日に掲載)

【著者紹介】

藤野直明(ふじの なおあき)

野村総合研究所 主席研究員

専門はSCM革新のコンサルティング。近年、第4次産業革命やIoT、オムニチャネルリテイリングでの調査研究・コンサルティング活動を、民間企業、産業政策双方の視点で行っている。日本オペレーションリサーチ学会フェロー、オペレーションマネジメント&ストラテジー学会理事、ロボット革命イニシアティブ協議会WG1メンバー。

(2017/10/27 05:00)

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