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【電子版】マーケティングの出番ですか?(4)市場を創造するアプローチ

(2017/10/28 07:00)

消費拡大の方策

経済が元気を取り戻しつつある昨今ですが、未だ多くの業界では市場の停滞、消費の低迷からの脱却、新たな成長軌道を模索していると思われます。

消費拡大の方策として一般的には、二つの方向性があります。一つは、少ないコストでより成果を出す方法として“市場の深掘り”、すなわち既存客にさらに満足していただいてリピート購入を促進することです。もう一つは、時間もコストもかかりますが“市場の間口を広げる”、つまり新規客を開拓して新しいマーケットを創造することです。

前者は、各社の営業努力の範疇であり、競合よりも上顧客へのサービスを向上させたり、商品や価格を見直し差異化を図るなど、継続的に取り組み、改善していくテーマです。

一方、後者の市場拡大、創造は、相当なパワーを要し、個々の企業の努力だけでは新規の市場を形成することは容易でありません。業界トップメーカーによる新機軸の商品やコンセプトの新提案、大々的なキャンペーン等をきっかけに、他社も追随するなどの複合的な要因も絡みつつ、結果的にひとつのカテゴリー(市場)が形成されたりします。サントリーが「ハイボール」の提案を機軸に若い世代にアプローチ、お酒の楽しみ方を新たに訴求しウィスキー市場を活性化させたケースなどは、その端的な例です。それでは、リーディングカンパニー不在の中小企業が集まる業界では、どのように市場の創造にアプローチすればよいのでしょうか?

男性客という新たなマーケットを創造するきっかけ作り「フラワーバレンタイン」

歯止めがきかない消費減少や若者離れ等の深刻な問題から市場が衰退している業界では、起死回生を狙い、日頃ライバル関係にある競合企業が協業して業界全体の問題解決や新規顧客の開拓をしていこうという機運が高まっています。

そのような典型的業種の一つである花業界における市場創造のアプローチを、筆者がプロジェクトリーダーを務める消費拡大プロモーション「フラワーバレンタイン」を例にご紹介します。

バレンタインデーは、日本では“女性から男性にチョコレートで愛を伝える日”とされていますが、欧米諸国、アジア各国では“男女が互いに愛や感謝を伝える日”であり、男性が女性に花を贈るのが一般的な風習なのです。この逆転現象を糸口に、「フラワーバレンタイン」は、“男性から女性に花を贈る”新しいマーケットの創造、加えて花業界の売上が落ち込む2月の底上げも視野に、2011年に業界の共通プロモーションとしてスタートしました。「フラワーバレンタイン」は、全国の花小売店のおよそ3分の1に相当する約8,500店の花店や生産者、流通業者が参画し、バレンタインデー直前には異業種(主に商業施設やメディア)との120件におよぶコラボレーションイベントが実施されるなど、急速に活動が拡大しています。2014年は大雪に泣かされた地域が多くありましたが、それでも2010年と比較するとバレンタインデー当日の売上は約6割増、事前のネット注文も増え、男性客の比率が大幅アップ、さらにホワイトデーを始め、年間を通じて花を購入する男性客が着実に増えているのです。

  • 「フラワーバレンタイン」のウェブサイト

市場創造の要諦(キモ)は!

こうしたプロモーションで最も考慮しなくてはならないことは“消費者の真の共感を得ること”です。フラワーバレンタインをきっかけに、彼女や奥様のとびきりの笑顔に出会い、花贈りの喜びを体感していただく。「こんなに喜ばれるなら、また花を贈ろう!」といった感じに、男性の共感を得て心を動かすことができれば、近い将来、花贈りが定着することが期待されます。日本の男性はもともと花に関心がない人たちなので、花店以外の場所での接点を作ることに注力しています。

男性の花贈りがテーマの書籍やスマホ用無料アプリ『花贈りnavi』(http://www.flower-valentine.com/app/)のリリース、集客力が高い商業施設でのイベント開催など、異業種とのコラボ レーションを積極的に推進し「フラワーバレンタインってなんかいいね♪」というムードを共に創り、社会現象化を目指しています。“男性の花贈り”という新たなマーケットの創出は、新しい文化、価値観の醸成、普及でもあります。お花に縁遠かった方、大切な女性がいらっしゃる方は、このコラムを機会に、是非、花贈りを体感してみてください。贈られた人も、贈った人も、花屋さんも、そして社会も、“四方良し”となること請け合いです!

(毎週土曜日掲載)

(『新製品情報』2014年6月号掲載)

【著者紹介】

小川典子(マーケティングコンサルタント)

一般社団法人花の国日本協議会(旧フラワーバレンタイン推進委員会)ワーキングチームリーダー

早稲田大学人間科学部卒

出身:東京

略歴:ワコールにて10余年、市場調査、顧客調査、商品・ブランド・店舗開発などマーケティング業務に従事。2002年キリンビールに転職、キリンの花ビジネスのマーケティングに携わる。2010年小岩井乳業に出向、食品のマーケティングを担当。2012年に花ビジネスのプロデューサー、マーケティングコンサルタントとして独立。 2010年よりフラワーバレンタイン推進委員会(現一般社団法人花の国日本協議会)ワーキングチームリーダー、現在に至る。著書『HOW TO 花贈り~気持ちを花にのせて(朝日出版社)』 など、各地講演多数。

(2017/10/28 07:00)

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